真夏の日差しはめっちゃ痛い。【元ADの話】
数年前、バラエティ番組のADだった。
暑い毎日が続くと思い出す。
土日の炎天下の中での街頭インタビュー。行き交う人にスルーされて続けてジリジリ焼けていく肌。真夏の日差しはめっちゃ痛い。
寝れなくても、忙しくても、あの日常は私にとって、なくてはならない時間だったと思う。
『大変だねぇ』『忙しそうですね』『辞めたくならないの?』『よく続けられるね』
私の職業はADです。というと、大体このようなことを言われた。
こう言われることに「得だな」と、私は思っていた。
ADという肩書きだけで、みんな「この人は苦労してるんだな」と思ってくれるし、なにかと話題にしやすいからだ。取材先やタクシーの中、そして転職してからでもネタが豊富である。
私はそう言われるたび「そうですねー、好きじゃないと続かないですねー」と答えていた。
正直なところ、ツラいと思ったのは新人の頃だけで、慣れてしまうと自分のペースで仕事をこなせるようになっていたし、急にやってくる無茶振りもツイないなぁーくらいでこなしていた。
そんな私が転職を決めた理由は3つ程ある。
①家庭の事情。
②ディレクターになりたいと思っていなかった。
③体力の限界が来ると思ったから。
①家庭の事情
私は地方出身で東京に働きに出ていたので、親が定年前に退職すると決まって、家に一人でいることが多くなり、特別大きな病気はないが持病があった為、心配だったというのがある。これが50%の理由。
②ディレクターになりたいと思っていなかった。
ADはその名の通り、アシスタントディレクターなので、いずれディレクターになりたいという人がなる職業だ。稀に『夢はADになること!』なんていう学生がいるが、ADなんてなろうと思えば入社するだけでなれる。ずっとADとしてサポート側に回りたいという人を除いては、いつかディレクターになるという前提のため、私もいつかはディレクターにならなければと思った時もあった。
が、いかんせん、私は作りたいモノや挑戦してみたい事がなかった。それは番組内に限らず、テレビ番組を作る人間として、こんな番組を作りたいと思ったことがないと気がついてしまったのだ。
そもそもなんでADになったの?と言われると、テレビ番組制作に関わりたかっただけである。なのでADになった時点で達成されてしまった。
③体力の限界が来ると思ったから。
ロケ準備、ロケ、編集、スタジオ収録。この一通りの中でADが休める時間はどこだと思いますか?
休む時間はない、が正解です。
編集はディレクターがするものではあるけれど、情報収集や必要な素材集め(よくテレビでみるイラストとか画像もADが発注したり探したりしてます)、取材先への確認などなど、常に忙しい。
スタジオ収録も例えば料理をタレントさんまで運んだり、作ってもらうためのフードコーディネーターさんの発注もAD、当日の台本やスケジュールを印刷するのもAD、スタジオにVTRを流すのもAD(これは番組によるかもしれない)。
私はVTRを流す役目をすることが多かったので、編集でろくに寝ないままタイムコードと睨み合うのは慣れていた。今思うとよく寝ずに頑張ったなと自分を褒めたい。(たまに間違えたりしたけれど)
さて、スタジオ収録が終わったから休めるんだろ?と思っても、次の日から次の収録に向けてロケ準備が始まる。
ずーっとこの繰り返し。そうなると悟るでしょう。これは体力の限界がくると。
私の転職理由は以上だが、それでも『この仕事が好きだから』という理由だけで続けられていた。それだけ楽しいことも多かったのだ。
“はらたくこと”に対して何に重点を置くかで、仕事の選び方は変わってくる。
ADになりたいと思ったあの頃の私は、“人生の半分以上がはたらいて過ごすのだから、楽しいと思える仕事をしたい”と思った。
でも、転職を決めた頃の私は“はたらくことだけが人生の過ごし方じゃ無い。もっと自分のことや大切な人のことを考えたい”と思ったのだ。
頭の中が、仕事仕事仕事で埋め尽くされていたのが転職することで真っ新にリセットされた。
そうしたら、仕事以外のことばかりを考えるようになった。
また脚本書いてみようかな、あの映画見に行こうかな、年齢に合わせたメイクをやってみようかな、流行りのスイーツ食べたいな。
自分はこんなことに興味があったのかと気付いたことがいくつもある。
そして大切な人がより大切にできる。
いまの私の頭の中にある仕事の割合は、以前に比べて1%にも満たないほどだ。
その代わりにやったことないことにチャレンジしようと思えることは増えたように思う。
それに、いまの仕事もちゃんと好きだ。
『ADやめても普通の仕事になんかつけないよ。毎日朝早く起きて、毎日同じところで毎日同じことできる?』
辞める前にそう言われたことをたまに思い出す。
その言葉に私は「できると思いますよ」と返した。
ADじゃなくたって、私は私らしく、はたらくことができる。その時何となく思ってたことが、いまちゃんと出来ている。
もしADになりたいと言っている人がいたら「若いうちはADやっても損はない」と私は言う。
一般企業などでは体験できない楽しさがある。ハラハラドキドキワクワクヘトヘト…。今の仕事がADの頃より刺激がないといえば、その通りではある。
ただ、クーラーが効いた部屋のベッドに寝そべって、土日なのに予定が全くない暇な日によく思う。
「あーAD辞めてよかった。」
まるこ