JMOC豊永稔インタビュー...... JMOCでの2ヶ月を振り返る。

5月30日の設立記者会見以来、精力的に活動してきた一般社団法人日本MMA審判機構(JMOC/ジェイモック)。この2ヶ月でやってきたことーー情報発信、ルール監修、講習会etc.ーー、今後の展望など、JMOC会長・豊永稔氏へのロングインタビュー。(聞き手/桐山香美)


特定プロモーションの関連法人でもないので、参加している役員のやる気だけでなんとかやってきた

――日本MMA審判機構(JMOC)の設立記者会見から2ヶ月が経過しました。

まだ、そんなものですか。記者会見前からいろいろと動いていたこともあるし、もっと時間が過ぎているような感覚でいましたね。

――この2ヶ月でSNSなどでの発信や講習会の開催など、いろいろなことに取り組んでいる様子でしたが。

そうですね。あくまでもこの法人は審判員が自発的に集まって作られたものですから、スポンサーがいるわけでもないですし、どこか特定のプロモーションの関連法人というわけでもないので、とにかく参加している役員のやる気だけでなんとかやってきた、やらなきゃいけないって感じですね。

――ホームページFacebookでは、海外MMAにおける事例など、MMAの競技運営に役立ちそうな情報が更新されていましたね。

はい。そのあたりは、副会長の松宮(智生)さんが中心となって更新していますんで、自分は何もやってないです(笑)。JMOCはやらなければいけないことがたくさんありますけど、やはりこういう競技運営に役立つような情報を発信していくことは、我々にとって大切にすべき主力事業の一部であると思っています。

――今まで、どこかの第三者機関が情報発信を行うというようなことは国内のMMAではあまりなかったことですよね。一部のメディアがニュースとして伝えることはあっても。

そうですね。今までは各プロモーションの審判部が現場で起きたことを審判部内で共有して実践していくというところまでが限界でしたからね。JMOCは特定のプロモーションに向けて発信するのではなく、いつでも誰でも見てもらえるようにしていますから、もし必要なものがあれば、各プロモーションで競技運営に活用出来ればいいのではないでしょうか。

――いろいろな情報が更新されていますけど、JMOCの情報源はどこからですか。

別に情報源は大したものではなくて、松宮さんが誰でも見ることのできる海外のニュースからピックアップしているものが大半ですね。松宮さんは、長年の間、ルールに関することを研究してきているので、膨大なニュースの中からどれを発信していくべきかというのを見極めていて、その選球眼やそれぞれの事例に対する解釈や分析が強みだと思います。

特定のプロモーションだけで完結するのではなく、広く共有していけたらいいなということ

――ニュースの情報源以外にも現場ベースでの情報も更新されています。

はい。現場で起きたこと、実践している取り組み事例などを共有することはとても大事なことだと思っています。実はここ数年、国内でのレギュレーションの改正というか、バージョンアップについては、RIZINが先進的に取り組んだことを、他の現場も追随しているというような印象があるんですね。例えばハンドラップ(手にバンテージやテーピングを巻くこと)のことで言うと、RIZINで現在の基礎となるような規定を2年ほど前に始めて、現在ではこれが国内のスタンダードになりつつありますよね。あとは、マットに水を濡らさないことを徹底したこと、セコンドによる試合放棄を示す備品の設置、入場時のボディチェック方法の統一化、女性選手には女性オフィシャルによるボディチェックの実施、インターバル中のセコンドの試合場内への立ち入りが2名まで可能など、考えてみたらいろいろとありますね。

――たしかに、それはここ数年の間に複数の団体で導入されつつありますね。

言いたいことは、早く導入したから良いとか悪いとかではなく、こういうことを特定のプロモーションだけで完結するのではなく、広く共有していけたらいいなということです。いままでは、たまたま掛け持ちの審判員がいたから、その審判員の情報提供で共有できていましたけど、じゃあ掛け持ちの審判員がいない場合はどうなるんだっていう部分はありますよね。

――日本のMMA全体の底上げには情報共有は必要ですね。

そう思います。それを個人レベルでやるのではなく、組織としてオフィシャルな形で蓄積していくべきだと思います。あとは海外の現場との情報共有も必要だと思いますね。

――海外の現場ですか?

はい。先ほど情報源の大半は海外のニュースと言いましたけど、そこは極端な話、誰でも見ることは可能な情報で、そこから先のプラスアルファという部分で、松宮さんのチョイスや分析があり、さらに実際の現場ではどう捉えて、どう実践しているかってことも大切になってくるかと思います。

――まぁ、たしかに、現場は生モノというか。

例えば、ルールをまったく同じものを使っていても、その解釈次第では全く別のものになってしまいますから。例えば、縦肘の定義にしてもそうだし、判定で「10-8」をつけるつけないっていう部分も、解釈次第でいくらでも変わる。じゃあ、実際に現場ではどう運用しているのかっていうのは大切になってきますよね。

最前線にいる日米のレフェリーが定期的に同じ現場を共に出来ていることは大きい

――いまのところ、そのような海外における現場の情報は収集できていますか。

そうですね、そこはRIZINに参加しているジェイソン・ハーゾグとの連携が大きいですかね。福田(正人)さんがRIZINでレフェリーを引き受ける条件として、レフェリングの動きが良くて、日本に理解があって、チームワークの良い外国人レフェリーをレギュラーで呼んで欲しいとリクエストしたそうなんですね。それでRIZIN事務局が連れて来たのがジェイソン・ハーゾグだったわけですね。福田さんの意図としては、外国人レフェリーをレギュラーにいれることによって、日本にはないスキルや情報などをみんなで習得していけるのではないかとの思いだったらしいんですね。

――ジェイソン・ハーゾグさんも2年近くレギュラーとして参加してますから、すっかりRIZINでは定着しましたね。

いや、彼はアメリカで数多くいるレフェリーの中でもトップレフェリーですよ。ジェイソンは熱心だから、私や福田さんとも毎回議論を交わしていて、最近ではそこにフランク・トリッグも加わって、そう言った意味では、海外の現場情報がリアルタイムで入りやすい状況にあるかと思います。実際に最前線にいる日米のレフェリーが現場で一緒になるということがRIZINで定期的に実現してるわけですからね、それってものすごく大きいことだと思います。

――そういうパイプというか信頼関係が国を越えて築けるのは素晴らしいことですね。

中立な組織として、ルールの監修を実施

ーーこの2ヶ月の間には、複数のプロモーションなどで「ルール監修」という形で協力されていたようですね。

5月にはAbemaTVのリアリティショー「格闘代理戦争2ndシーズン」のルール監修のお手伝い、あと7月には老舗プロモーション「ZST」のルール改正のお手伝いをJMOCでやらせていただきました。

ーールール監修というのは具体的にはどのようなものですか。

ルールに試合を行うための条件、例えば競技用具、試合場などの規定がしっかりと整備されているか、あとは、判定基準や反則、反則への処置がしっかりと明確に定められているかという部分です。ルールは審判員や選手の根拠となる唯一のものですから、それらがしっかりと規定されて構成されたルールなのかどうか。でも、今回の場合は実質的にゼロからのお手伝いというところでしたので、既存の規定を監修するというよりかは、新しいものを作るという感じでした。

ーー格闘代理戦争にJMOCのロゴが出てきたのには正直驚きました。

繰り返しになりますけど、JMOCは特定プロモーションの審判部や特定プロモーションの関連法人ではないですから、しっかりとMMAの競技運営をやっていきたいというプロモーションには中立な立場を保って積極的に協力していきます。当初、格闘代理戦争への協力に関しては内部でも慎重論がありました。

ーーそれはなぜですか。

それは、番組での煽りが派手だったので、失礼な話になってしまいますが本当に真剣にやるのだろうかという部分はありました。でも、番組は何もない状態で始まっているものなので、逆に私たちがMMAの競技運営はこうあるべきだ、ルールもこうするべきだと、積極的に指導や監督をするべきではないかと。我々以外が関与して、何かいい加減な競技運営をしてしまったら、MMAはこの程度なのかと世の中に誤解を招く可能性もあると。だから草の根運動として、MMAをスポーツとして発展させる良い機会だということで、最終的には役員の了解も得て協力させていただくことになりました。

全国展開予定のレフェリー・キャラバン、講習会には女性参加者も

ーー最近では、講習会も何度か開催されました。

7月に「TOKYO 2Days」と銘打って東京で2日間に亘って講習会を開催しました。初日はレフェリー・ジャッジ講習会で、2日目はインスペクター講習会ですね。8月には名古屋でもインスペクター講習会を開催しました。

――だいぶ盛況だったようですね。

どうですかね、まあ我々にとって初めてのイベントでしたし、手探り状態だったので、これで良かったのかどうかわかりませんけど、一般の方からの応募が予想以上にありました。まずは東京と名古屋で開催できてよかったなと、良い形で今後につながればいいなと思っています。

――レフェリー・ジャッジ講習会というのは、今までもスポットで開催されるようなことはあったかと思いましたが、インスペクター講習会というのは珍しいですね。

インスペクターという仕事は日本では馴染みが薄いですし、まだまだこれからの分野ですけど、実際にインスペクター制度を導入しているプロモーションがあるなかで、それなりに重要な業務にも関わらず、その日限りのバイトで回していって本当にいいのかっていう危機感がそのプロモーションや我々審判員にもあったわけです。それをきっかにJMOCで企画したという形です。

――なるほど。当日は女性の参加者もいましたね。

はい、全体で20名ほどの受講者のうち、女性は4名いました。

――みなさんインスペクター志望者なのでしょうか。

いや、それはわかりません。ただ単に興味本位かもしれないし、ハンドラップを覚えたかったのかもしれないし、人それぞれでしょうね。女性参加者の中には、昨年までプロ修斗でラウンドガールをされていた紺野ミクさんもいたと後から聞いてビックリしましたけどね(笑)。

――紺野さんは、格闘技とは全く関係のないメディアでも受講レポートを載せていましたね。

はい、そうみたいですね。自分はインスペクター講習会当日に他のレフェリー業務があったので立ち会うことが出来なかったのですが、ものすごく真剣に取り組んでいたと聞きました。彼女自身、修斗の現場を通じて、MMAそのものに興味を持ち始め、試合だけでなく我々のような裏方にも興味を持ったみたいで。JMOCではそういう方でもカバーできるようなものにしていきたいですよね。

――名古屋の講習会はいかがでしたか。

東京でのインスペクター講習会のメインは我々の仲間でもある新井(誠介)さんによるハンドラップの実演・解説だったわけですが、「他の日は開催しませんか?」とか「地方でもやらないんですか?」みたいな反響があったので、すぐに名古屋開催を決定しました。名古屋は私も立ち合いましたけど、みんな真剣でしたね。

――タイトルとして「ALL JAPAN REFEREE CARAVAN」と銘打たれている中で、各講習会が開催されていますが、これは文字通り全国でやっていくということですか。

はい、ここまで東京と名古屋で講習会を開催しましたけど、全国各地でなんらかの形でJMOCの関係者が回っていけたらと思います。たとえ、講習会のような形でなくとも、地方の大会に東京のJMOCの人間がレフェリーとして行くということも、ある意味キャラバンの一部だと思いますし。実際、7月には同じ日に、山口青森でMMA大会が開催されて、東京から福田さんと松宮さんが出向きました。2人が現場で仕事をすることによって地方のレフェリーの方に良い影響を与えると思いますし、これもキャラバンの一部だということですね。

――地方に東京のレフェリーが行くということは、ある意味現場でのジョブトレーニングとして講習会以上の効果があるかもしれないですね。

それはあるかもしれないですね。もちろん、全国のプロモーターさんなどと連携して、その地域が求める内容の講習会を随時開催していきたいですね。

年内講習会は大きなものを3つ、沖縄でも予定してます

――東京、名古屋に続く講習会の予定はありますか。

年内では、大きなものを3つほど計画しています。

――やはり東京以外での開催になるのでしょうか。

開催が内定しているのが沖縄です。あとは場所とか詳細を詰めないといけませんが、レフェリングとジャッジング主体の講習会を沖縄でやります。現地の関係者と連携しての開催になるので、詳細はこれからですが、近いうちに発表できるかと思います。

――残りの2つは話せますか。

残りは地方の方には申し訳ないのですが、現段階では東京です。でも必ず地方開催を増やしていきますので、その開催に向けて頑張っていきます。

――既に東京では、レフェリー・ジャッジ講習会とインスペクター講習会を開催していますが、内容としてそれに続くものになりますか。

いや、残り2つに関しては、ガラッと中身が変わると聞いています。どちらかというとレフェリーという仕事に興味を持ってもらうきっかけとなるような内容も含まれるかもしれません。だから、競技オフィシャルだけが対象ではなく、一般の方、ファンの方に出ていただいても満足してもらえるようなものになるのかと思います。

――各種情報発信、講習会の開催などここまで活発的に展開してきましたが、今後の展開についてお聞かせください。

自分たちは、志が同じ仲間が自発的に集まって出来ただけの組織ですので、ものすごく小さい組織で経済力もないですけども、特定のプロモーションに雇われて特定のプロモーションのためだけに何かをやるという考え方ではなくて、日本のMMA業界全体のためにお役に立てればという思いでみんな中立な立場でそれぞれ動いています。これからは、そういう同じ志で取り組んでくれる仲間を少しでも増やす仕組みを作っていくことが大切になってきますね。そのためにも皆さんにはご支援をお願いしたいですね。

――今後の展開に期待しています。ありがとうございました。



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