
サブカル大蔵経267津野海太郎『歩くひとりもの』(ちくま文庫)
血縁があろうとなかろうと、家庭は結局、一時的なものなのだ。p.38
ひとりものの部屋は何に似ているか?棺桶に似ていると私は思う。p.63
初めて読んだ時、今、自分はすごいものを読んでいる…と興奮を感じながら読んでいたことを覚えています。そして、最後の〈裏切り〉に出会った時、ホッとしたような、幻滅したような…^_^
私は津野さんが編集していた雑誌『本とコンピュータ』を愛読していました。その真摯な姿勢のままの誠実なエッセイです。
なんだ、俺はもう結婚する可能性よりも、しない可能性の方がはるかに大きいんじゃないか。そうとわかった途端に気持ちが楽になった。この発見によってもたらされた1番の変化は、女性に対するこわばりが薄れたことだろう。肩の力が抜けて普段付き合う友達の顔ぶれが少し変わった。p.40
壮大な伏線、とも言える。
「なぜ結婚しないの?」と言う問いを支えるもう一つの問いはその問いを発した人間もはっきりとは意識していない暗闇の中にある。それに比べると「なぜ結婚したの?」とか「するの?」と言う逆襲はいささか論理的すぎる。p.86
その暗闇は人類の闇かもしれない。
妹の力。宮沢賢治の妹トシ子だって、もっと長生きしていたら、一生、兄の暮らしの面倒を見続けることになったのではあるまいか。では妹のいないひとりものは、どうすれば良いのだろう。その時は一族の若い女性を引き取って妹の代わりをさせるのである。p.30
この文章のロマンと残酷さと。
小林カツ代『急げや急げ料理の基礎とコツ』。彼女は、与えられた条件を決定的なものとして捉えない。
独身男性が料理本を通して感じること。津野さんは小林カツ代の<思想>に委ねた。
1960年の初めに私は高円寺の飲み屋で、小野次郎と言うウィリアム・モリス研究家のお化けに出くわした。彼に誘われて、まだ発足してまもない晶文社という無名出版社の五人のメンバーの一人になった。p.88
読みながらサイのマークが浮かぶ。本好きとして、お世話になってきました。
脳髄ではなく全身の細胞が考えるように、自分ではなく自分をふくむ関係の網の目が考える。p.96
編集とは、仏教的思想かもしれない。
たまたま酒場で隣り合った人物の話がめっぽう面白かったりすると、おっ、これで本が一冊できるなと、その場ですぐに目次を考え始める。p.165
この魂というか、病が発動する居酒屋という場の力。都会的な感じがする。歩くことの成果のひとつか。
たいていの場合、コイン・ランドリーにはひとりものしかいない。p.223
先日入った、ほかほか弁当屋さんにもそういう清冽な空気がありました。
「歩く裏切り者」p.234
山口文憲、関川夏央との名トリオとの鼎談の中で。
いいなと思ったら応援しよう!
