サブカル大蔵経200ビートたけし『佐竹君からの手紙 サハリン篇』(太田出版)
サハリンを枕にたけしへの貴重なイジリをぶち込んでくる。佐竹チョイナチョイナの怪作。軍団の殿イジりはタブーかと思いきや、たけし名義の本だからなのか、ここまでイジりが許容されていたとは。
バイク事故で転んでもただでは起きず、顔面麻痺で印税を稼いだ殿を見習って、私も一挙両得を狙いたいと思います。p.5
そう考えると、去年の8月のバイク事故も、袋小路を突破するための殿の大博打だったようにも思います。p.26
殿の活動再開に関して、巷では知識人たちがあれこれ言っているようです。芸が空回りしている、ギャグのキレがない、危ない芸人ではなくなったなどと、みんな言いたい放題です。私が素朴に思うのは、テレビで見る殿は、まるでデビューしたてのタレントのような気合いに溢れていると言うことです。失礼ながら事故前のたるんだ状態に比べると、1分間にしゃべる言葉数もかなり多いのではないですか。p.29
殿、テレビに順調に復帰しているご様子、それはそれで結構なことですが、ご自分のことを強運があるだの、奇跡的な回復だなと言うのはやめたほうがいいですよ。バイク事故とは比べようもない歴史の大事故にあった人たちがいっぱいいるのですから。自分のことをあれこれ言わず、ひたすらお客さんを笑わせていけば良いのではないでしょうか。どうも話が脱線しましたが寒さのせいか言うことが柄にもなく硬直してしまうようで困ったものです。サハリンを舞台に笑いを取るのは大変なことですね。p.46
ここまで痛快に、そしてたけしを逆説的に成り立たせるツッコミはないと思うし、これを許す関係こそが、たけし復活の底層だったのではと夢想しました。
復刊、文庫にならないのかな…。
昨年サハリンに行く前に、かき集めていた本の中で出会った本書でしたが、たけしイジりを脇に置いても少し前のサハリンの状況を活写する貴重な本だと思います。
朴さんの父親のように日本帝国の植民地だった朝鮮半島から強制連行されてきた人たちは、泣くに泣けなかったでしょう。実際問題として泣くと涙がすぐに凍ってしまい目がふさがってしまうのですからどうにもなりません。三島由紀夫のおじいさんが樺太町長官として来島しそれなりの業績をあげたものの失脚して東京に帰ったとか、少し大げさに言えば、戦争に負けて日本の国もすごすごと逃げ帰ったわけで、サハリンは日本人とって躓きの島なのかもしれません。p.46
日本人だけでなく在日朝鮮人がサハリンに抑留されたことについても冒頭から触れられています。しかもその方が佐竹の通訳という悲喜劇。
思うにサハリンとサリンはどことなく似ていますし、家宅捜索を受けているオウム真理教はロシアと非常に縁が深いそうでし、とても他人事とは思えません。お笑い芸人の端くれなら、ここ1番「サリンからの手紙」と改題すべきでしょうが、今はカニ商人の立場ですので、分をわきまえやめることにしました。念のため言っておきますがあの事件、私はやっていません。p.57
オウム、早川、ロシア、サリン。この謎、遠くて今でも近いかも。
夜は市内にあるコリアンクラブでの接待でした。6人のロシア人にそれぞれコリアン女性がつき、我々にはロシア人ホステスがつきました。ついでに言うとクラブの料金が札幌と同じで1人の代金がサハリンの成人男性の1ヵ月分の給料位だそうです。p.88
現在も市場でのコリアン商品、街角でのコリアン料理、コリアンクラブありました。
もっと言うとだな、サハリンの人たちには、表面はともかく反日の気持ちが根強くあるんだよ。日露の間にはそう簡単には水に流せない悲惨な歴史が挟まっているってことだな。ところで今日は何をやるの?やっぱり、あのお皿でポコチンを隠すやつ?うんそうか、カリンカのポコチン隠しか。まぁな、芸は何でもいいから、とにかく笑わせてさ、日本とロシアの間の硬い氷を溶かしてよ。うん、見せる芸がポコチン隠しね。まぁ、サハリンではいいかもしれない。p.98
昨年行ったサハリンのバー「オペラ」のメニューに「露日戦カクテル」がありました。戦勝記念塔の旗もたなびいていました。
かいつまんでいうと、私の芸はロシアを侮辱するものだから、放送禁止だというのです。お皿でポコチンを隠す芸自体はいいらしいのですが、私が日ロ友好を祈念して、お皿の表に日の丸とロシア国旗を描いたのがまずかったようです。(中略) もう一つはテーブルの上に置いたマトリョーシカを撫で回し、次々に小さい人形を取り出すと言う単純なものです。最初はエリツィンから始まって、ゴルバチョフ、フルシチョフ、スターリンと進み、普通のマトリョーシカは骸骨になるのですが、私の場合はレーニンが最後です。で、レーニンの人形は底がくりぬいてあり、それをポコチンにはめて、「おお、ロシア、ラスプーチン!」と叫ぶオチなのです。(中略)通訳の朴さんによると、「そんなものをテレビでやれば、君はシベリア送りだぞ。しかし、日本のコメディアンはどうして局部の芸しかできないのか」p.105
どこまでほんとかわからないけど、これがホントならたけし軍団イズムの最たるもので、このエピソードによってそのステータスもさらに上がっていたような気がします。エガちゃんに受けつがれているのかもしれませんが。さらにヒドくてすごい。
馬鹿野郎、若い時の苦労は買ってでもしろって言うだろうが、俺に金をよこしやがれ。志ん生は満州でひどい目にあって化けたって言うしな、お前も今の苦労を肥やしにして、ちっとは芸人らしくなってみろってんだ。p.183
ここも『いだてん』とシンクロして驚きました。たけし、この頃から志ん生役と繋がっていたのか…。クドカンここ読んでたのかな…。