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アメリカにあって、日本に無いもの:ナラティブと社会の合意形成

1.オバマの演説の「間」が持つ重み

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーはろー。

こんにちは。あら素敵なカフェですね。

ーでしょう。天井が高くてよい。
どうですかスミさん。最近は。

先週末、同期4人くらいととzoom飲み会をしたんですけどね。

ーいいじゃない。

会話の速さについていくのが、まあ大変。
いつもコイさんと、考えながら、途切れ途切れにゆっくり話すでしょう?

ーそうね。単語単位でぽつぽつと。笑

コイさんは考え方のベースが共有されてるから、一を聞いて十を知ってもらうのにも慣れてるし。
もっとペラペラ話せないと、仕事戻ってやっていけないよ。笑

ーそうかな。
俺はシンプルな単語で、ゆっくり話せるほうが良いと思うけど。

そう?

ーアメリカにいた時、ちょうどオバマが大統領選の頃だったんだけど、当時からスピーチ上手いっていう評判だったよ。

そうなんだ。

ーわかりやすい言葉を使って、文章のあいだの「間(ま)」をとるのがうまい。

ほー。
はじめて聞いてみたけど、結構いちいち沈黙してるんだね。印象に残る。

ーそうそう。
間をとることで、自分が意図したポイントで聴衆の拍手や笑いを引き出してるよね。
話したいポイントもよく伝わるし、自信に溢れてて場を支配できてる。

確かに。
ノーベル賞とったマララさんのスピーチもそんな感じだね。

ー話すスピードというより、沈黙の時間をうまく使ってるね。
「えー」とか余計な言葉でつなげてもいない。

プレゼンで1秒でもだまるって、結構勇気いるけどなぁ。

ーまあ、慣れもあるよね。

2.日本に存在しない概念、”ナラティブ”図23

そういえばこっち来て気づいたんだけど。
アメリカ人って、なにかを語る時よく「ナラティブ(Narrative)
っていうワードを使うよね。

ーそうだね。

「この問題を解決するには、若者に、こうしたナラティブを伝えねばならない」とかさ。
コイさんも仕事でよく「ナラティブ」って言ってたよね。

ーうん。おれも留学時代を経て組み込まれたかも。

それこそ私、当時はあんまりよく理解できてなかったんですよね。
日本語には、これにバッチリ相当する概念って無いじゃない。

ー「物語」「ストーリーテリング」に近いけど、ニュアンスがもう少しあるかな。

辞書の定義だと、
特定の状況やプロセスを、そこに通底する「目的」に一致させる形で、表現すること、らしい。

”Narrative”(Oxford Dictionary
1. A spoken or written account of connected events; a story.
2. The practice or art of telling stories.
3. A representation of a particular situation or process in such a way as to reflect or conform to an overarching set of aims or values. (上記の和訳は筆者による)

ー例えば、とあるプロジェクトについて、相手の共感と賛同を得るために、背景から始まって意義やインパクトを一連の話として語るもの、っていうイメージかな。

当時は「日本でおk」って思ってたけど、今ならこの重要さがわかりますよ。

ーやっとお気づきになられましたか。笑

うん。笑

3.ハイコンテクストな日本の課題

図24

しかし、なんで日本にはこの概念が無いのかね。

ーそうね。
アメリカ社会って、人種、社会背景、宗教、言語とか、多様なメンバーで構成されてるじゃない。
色んな人の賛同を得て、物事を進めるために「物語として直感的に共感できる言語化されたナラティブ」が特に重視されてるんだと思う。

ふむ。

ー日本は、アメリカに比べれば、圧倒的に同質的だよね。
ハイコンテクストな社会。

ハイコンテクストってなんだっけ。

ーメンバー同士、文脈や背景がよく共有されてて、明確にコトバとして伝えなくても、察しあいで意図が通じる環境、みたいな。

ああ、そうそう。
世界の中で最もハイコンテクストな言語って、日本語らしいよね。

ーうん。
そういう日本社会では、「ナラティブ」の重要性ってあまり認識されないでしょう。

だから、言葉として存在しないんだ。日本に。

ソシュール(1857-1913)
 コトバは、世界を区分する記号。コトバが人間の現実をつくっている。

ー社会で、これまであまり認知されてこなかったんじゃない。
仕事でも案外、「コンセプト」とか「抽象」って軽視されがちだけど。

確かに。
実際にどう実装するんだ、ってところばかり詰められて。

ーうん。本当はビジネスでも公共でも、ナラティブって重要なんだけどね。
例えばマーケティングだと、顧客が製品やサービスのユーザーとして自分自身を想像できるようする、とか。

特に日本のパブリックで、弱い気がするな。
「この政策で、あなたの生活が、どのように変化するのか」っていう。

ー総理の演説とかだと、「○○町の農家のおばあちゃんが、こんなことを言っていた・・・」から入って、壮大な政策の話につながったりするけどね。

スピーチライティングとかでも重要ですね。色んな仕事に関わる。
といっても、私は少なくともあと1年は学生だけど。

ーうらやましいよ笑。 よく学んでください。

はい。笑

ー私は新しいプロジェクトがなんだかんだ忙しくて、毎日ぐんなりです。

立ち上げ時はいろんなことあるもんね。
がんばってくださいませ。

ーはい。ありがとう。

じゃあ今日はこのへんで。

ーじゃあね、しーゆー。

(…Facetime終了)

★参考文献★
Youtube "The Speech that Made Obama President", 
"Malala Yousafzai - The right to learning should be given to any child"
"What is narrative? 5 narrative types and examples"
https://www.nownovel.com/blog/narrative-examples-strong-narration/
American Rhetoric https://www.americanrhetoric.com/barackobamaspeeches.htm
『現代思想のパフォーマンス』 難波江 和英, 内田 樹(光文社新書)

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スミさんとコイさんのFacetime
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