アメリカにあって、日本に無いもの:ナラティブと社会の合意形成
1.オバマの演説の「間」が持つ重み
(…Facetimeの呼び出し音)
ーはろー。
こんにちは。あら素敵なカフェですね。
ーでしょう。天井が高くてよい。
どうですかスミさん。最近は。
先週末、同期4人くらいととzoom飲み会をしたんですけどね。
ーいいじゃない。
会話の速さについていくのが、まあ大変。
いつもコイさんと、考えながら、途切れ途切れにゆっくり話すでしょう?
ーそうね。単語単位でぽつぽつと。笑
コイさんは考え方のベースが共有されてるから、一を聞いて十を知ってもらうのにも慣れてるし。
もっとペラペラ話せないと、仕事戻ってやっていけないよ。笑
ーそうかな。
俺はシンプルな単語で、ゆっくり話せるほうが良いと思うけど。
そう?
ーアメリカにいた時、ちょうどオバマが大統領選の頃だったんだけど、当時からスピーチ上手いっていう評判だったよ。
そうなんだ。
ーわかりやすい言葉を使って、文章のあいだの「間(ま)」をとるのがうまい。
ほー。
はじめて聞いてみたけど、結構いちいち沈黙してるんだね。印象に残る。
ーそうそう。
間をとることで、自分が意図したポイントで聴衆の拍手や笑いを引き出してるよね。
話したいポイントもよく伝わるし、自信に溢れてて場を支配できてる。
確かに。
ノーベル賞とったマララさんのスピーチもそんな感じだね。
ー話すスピードというより、沈黙の時間をうまく使ってるね。
「えー」とか余計な言葉でつなげてもいない。
プレゼンで1秒でもだまるって、結構勇気いるけどなぁ。
ーまあ、慣れもあるよね。
2.日本に存在しない概念、”ナラティブ”
そういえばこっち来て気づいたんだけど。
アメリカ人って、なにかを語る時よく「ナラティブ(Narrative)」っていうワードを使うよね。
ーそうだね。
「この問題を解決するには、若者に、こうしたナラティブを伝えねばならない」とかさ。
コイさんも仕事でよく「ナラティブ」って言ってたよね。
ーうん。おれも留学時代を経て組み込まれたかも。
それこそ私、当時はあんまりよく理解できてなかったんですよね。
日本語には、これにバッチリ相当する概念って無いじゃない。
ー「物語」「ストーリーテリング」に近いけど、ニュアンスがもう少しあるかな。
辞書の定義だと、
特定の状況やプロセスを、そこに通底する「目的」に一致させる形で、表現すること、らしい。
”Narrative”(Oxford Dictionary)
1. A spoken or written account of connected events; a story.
2. The practice or art of telling stories.
3. A representation of a particular situation or process in such a way as to reflect or conform to an overarching set of aims or values. (上記の和訳は筆者による)
ー例えば、とあるプロジェクトについて、相手の共感と賛同を得るために、背景から始まって意義やインパクトを一連の話として語るもの、っていうイメージかな。
当時は「日本でおk」って思ってたけど、今ならこの重要さがわかりますよ。
ーやっとお気づきになられましたか。笑
うん。笑
3.ハイコンテクストな日本の課題
しかし、なんで日本にはこの概念が無いのかね。
ーそうね。
アメリカ社会って、人種、社会背景、宗教、言語とか、多様なメンバーで構成されてるじゃない。
色んな人の賛同を得て、物事を進めるために「物語として直感的に共感できる言語化されたナラティブ」が特に重視されてるんだと思う。
ふむ。
ー日本は、アメリカに比べれば、圧倒的に同質的だよね。
ハイコンテクストな社会。
ハイコンテクストってなんだっけ。
ーメンバー同士、文脈や背景がよく共有されてて、明確にコトバとして伝えなくても、察しあいで意図が通じる環境、みたいな。
ああ、そうそう。
世界の中で最もハイコンテクストな言語って、日本語らしいよね。
ーうん。
そういう日本社会では、「ナラティブ」の重要性ってあまり認識されないでしょう。
だから、言葉として存在しないんだ。日本に。
ソシュール(1857-1913)
コトバは、世界を区分する記号。コトバが人間の現実をつくっている。
ー社会で、これまであまり認知されてこなかったんじゃない。
仕事でも案外、「コンセプト」とか「抽象」って軽視されがちだけど。
確かに。
実際にどう実装するんだ、ってところばかり詰められて。
ーうん。本当はビジネスでも公共でも、ナラティブって重要なんだけどね。
例えばマーケティングだと、顧客が製品やサービスのユーザーとして自分自身を想像できるようする、とか。
特に日本のパブリックで、弱い気がするな。
「この政策で、あなたの生活が、どのように変化するのか」っていう。
ー総理の演説とかだと、「○○町の農家のおばあちゃんが、こんなことを言っていた・・・」から入って、壮大な政策の話につながったりするけどね。
スピーチライティングとかでも重要ですね。色んな仕事に関わる。
といっても、私は少なくともあと1年は学生だけど。
ーうらやましいよ笑。 よく学んでください。
はい。笑
ー私は新しいプロジェクトがなんだかんだ忙しくて、毎日ぐんなりです。
立ち上げ時はいろんなことあるもんね。
がんばってくださいませ。
ーはい。ありがとう。
じゃあ今日はこのへんで。
ーじゃあね、しーゆー。
(…Facetime終了)
★参考文献★
Youtube "The Speech that Made Obama President",
"Malala Yousafzai - The right to learning should be given to any child"
"What is narrative? 5 narrative types and examples"
https://www.nownovel.com/blog/narrative-examples-strong-narration/
American Rhetoric https://www.americanrhetoric.com/barackobamaspeeches.htm
『現代思想のパフォーマンス』 難波江 和英, 内田 樹(光文社新書)