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米国メディアTubiの台頭:限界費用ゼロじゃないプラットフォームの未来

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第24回)。
今回は、コンテンツビジネスを例に今後のカギについて議論します。

1.アメリカのネクストメディア「Tubi」

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーもしもーし。

こんにちは。あ、また疲れてる。

ー毎日出ずっぱりでつかれた。

いつもそんなことばっかり言ってますねえ笑

ー来週いっぱいでひと段落するかなあ。

私はついに授業が始まって、生活に張り合いが出てきた!

ーお、いいね。

「メディアとエンタメのイノベーション」っていう授業の予習が興味深かった。
コイさん、Tubiって知ってる?

ーお、知らないなあ。

Tubi:映画やテレビが無料/広告ありで楽しめる、ストリーミングライブラリ。映画やテレビが無料で楽しめる。今年FOXメディア(米国最大手のテレビNW)に4.4億ドルで買収された。
Netflixなどと違って広告があり、ライブやオリジナル番組は無いが、パラマウントなどのプロバイダと契約し、古いが良質なタイトルが売り。

アメリカでは、月間アクティブユーザーが2500万人という人気レベル。
次の授業のゲストはこのTubiの社長なんだよ。

ー2500万人!それはすごいな。

今、NetlixとかHuluとかのストリーミングが人気じゃないですか。
そんな中で、TubiはCMもあるし最新コンテンツも無いけど、ミレニアル世代に人気らしい。

ーほう。

黒人やLatinoを題材にしたマイノリティ向けのコンテンツとか、子供向けの番組が充実してて、レコメンデーションエンジンを武器にするためにすごい投資してるらしい。

ーなるほど。

そういうデザインだから、既存のサービスとも競合しないらしい。
実際、Tubiのユーザーのうち7割がNetflixにも契約してるらしいのよ。


2.単なるプラットフォームじゃ終われない

図23

ー面白い。Tubiの強みはそのキュレーション機能かもね。

と言うと?

ー例えばスミさんがよく聞いてる音読Podcastのモデレータいるじゃない。元Wired編集長の若林さん。

うん。

ー若林さんがお勧めするのって、自分では手に取ってみなかった本も読んでみたいと思うでしょ?

確かに。結果的に、自分の普段の思考を超えて、世界が拡張する感じがする。

ーそうなんだ。笑
自分が信頼する価値の高いキュレーションの価値が高まるよね。

そういえば、Amazonにも私の閲覧履歴に基づくレコメンド機能はあるけど、私の予想を超えてこないな。
関連してる内容ってだけで。

ーレコメンドエンジンを変えればAmazonも「意外に」面白い本を出せるかもしれないけど、キュレーションの魅力は、誰がおすすめしてるからだからね。
プラットフォーマーそのものはキュレーターにはなりづらい。

そうだね。しかも、特定のキュレーターの評価と、市場一般の評価って必ずしも一致してない。
この前も若林さんのおすすめ本を調べたら、米国Amazonでは星3.5しかなくてレビューも10件そこそこだったけど、私にとっては面白かった。

ー逆に言えば、キュレーターのお勧めなら、特に珍しい本じゃなくても、有難く感じる効果もあるかもしれない。笑

そうかもしれない。若林さんがおすすめしてるから、ってのはあるかも(笑)
ある意味、ブランド品みたいだね。

3.PFビジネスは限界費用ゼロじゃない

図24

ーそう考えると、プラットフォームビジネスも次の段階に行くのかもね。
今までは、顧客とのタッチポイントを押さえて、モノやコンテンツを自分の陣地に集めるほど良かったけど。

いわゆる、限界費用ゼロの世界。

(リンク:プラットフォームビジネスの戦略解説)
※記事では"Aggregation"と表現

ーそうとも限らないよ。
メディアなら、子供向けに問題ないかとか、その国の主義主張から反してないかとか、チェックが要る(笑)
これにキュレーションとなれば、余計にかかるよね。

うん。授業で、それには三段階あるって整理されてた。
ユーザーとの関係では限界費用ゼロでも、魅力あるプラットフォームにするために必要なコスト別で分けると面白い。

レベル1:コンテンツを取り込むコストゼロ(例:Google)
・大量のユーザーに、限界費用ゼロで検索サービスを届けられる
・サプライヤー(ブログやWebサイトの管理者)をプラットフォームに取り込むコストかからない
レベル2:コンテンツを取り込むコスト中(例:Netflix)
・大量のユーザー(視聴者)に、限界費用ゼロで動画を届けられる
・サプライヤー(動画コンテンツ)の差別化にコストがかかる。
・サプライヤーは、基本的にNetflixが独占(競合に取られづらい)
レベル3:コンテンツを取り込むコスト高(例:Uber, Airbnb)
・大量のユーザー(アプリ利用者)に、限界費用ゼロで配車サービスを届けられる。
・サプライヤー(運転手)の安全性確認で、プラットフォームに取り込むコストがかかる(身元確認、免許確認など)
・サプライヤーは、基本的に独占できない(競合に取られる可能性)
(リンク:上記の整理はここからスミさんが要約)

とまあ、こういうコストが、プラットフォームビジネスの成長を制限してる、っていう話。そこがこれからのカギだと。

ーなるほど。
MBAは思考の枠組みを整理をしてくれるから良いな。

4.そしてPFは新しい分野へ

図25

でさ、レベル2の「コンテンツの差別化のコスト」はそこに価値があるから圧縮できないじゃん。

ーはい。

でも、レベル3の「安全性確認にかかるコスト」は、皆同じく踏むプロセスでしょう。

ーそうね。
だから、日本のマイナンバーカードやインドのIndia Stackみたいな、デジタル公共財が共通プロセスをカバーしていくのは、新しいビジネスにもつながるかもね。

ん?新しいビジネスって?

ー今はプラットフォーム上でのマッチングサービスって、家や配車の世界だよね。
でも、身元確認が簡単に出来るようになったら、より高い安全や安心が求められる、介護とか子守りみたいな福祉分野にも、拡大できるようになるんじゃないかな。

特に日本社会だと、そういうの余計気を遣うし。

ーそうなったらさ、単に新しいビジネスが生まれるとかイノベーションが、とかじゃなくて、ユーザーとしての市民生活もよくなるじゃないですか。
そういう未来に持ってく、ってのが今の課題なんじゃないかしら。

なるほど。コイさん、良いこという。

ーアメリカ人には負けませんよ。笑

笑。じゃあ、私は予習に励みます。

ーはい。精進してください。私は週末だらだらします。

コイさんって、ぶつぶつ言いながらも週末仕事してばっかりですもんねえ。笑
ではでは、またー。

ーはーい。じゃあね。

(…Facetime終了)

★参考文献★
Tubi 公式Website https://tubitv.com/
『Fox buys Tubi for $440 million as it attempts to join the streaming wars』(The Verge)https://www.theverge.com/2020/3/17/21184294/fox-tubi-acquisition-streaming-wars-news-sports-xumi-comcast-pluto-viacomcbs
『Aggregation Theory 』(Stratechery) https://stratechery.com/2015/aggregation-theory/
『Defining Aggregators』 (Stratechery) https://stratechery.com/2017/defining-aggregators/

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