リビングのOS戦争:私のデータの値段と、新しい家電の売り方
米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第27回)。
1.スマートホームの違和感が行きつく先
(…Facetimeの呼び出し音)
ーやっほー。
こんにちは。最近お忙しいですね。
ーほんとだよ。なかなか休めるタイミングが来ない。
しかしスミさんから最近、授業の話をとんと聞かないね。真面目に勉強してる?笑
失礼な。笑
疲れてるときに、私が勉強してるカント哲学とか、プラットフォーマーの独占問題とか聞きたくないでしょ。
ーおお、遠慮していたのか。笑
そういう意味では、「メディア・エンタメ業界のPlatformer Strategy(プラットフォーム戦略)」の授業、今週面白かった。
”War for OS in the Living Room”と題して。
ーほう。
リビングもプラットフォーマーのコントロール下に置かれるのかしら。
かもしれない。
ずっと違和感あった「スマートホーム」が、別の物として解釈できるようになった。
ーと、言いますと。
いや、「自動でカーテン開けれる」とか、「帰宅1時間前にエアコンつく」とか、正直スマートか?って思うじゃないですか笑。
ーそれは本当にそう思う。笑
でもスマートホームって、データを使って「消費者のホームアプライアンス体験をめちゃ良くする」っていうものではないのかもしれない。
「各家庭のリアルデータをプラットフォーマーが取得するためのツール」なのかなと。
ーほう。
消費者じゃなくて、プラットフォーマーに裨益するものとして捉えるということね。
そうです。
例えば「スマート炊飯器」があったとして、革命的にコメが美味しくなる機能がつきそうには無いじゃないですか、多分。
ーそうね。
でも、プラットフォーマーは、コイさんが「いつご飯を炊くか」とか「どれくらい自炊するか」とか、そういうデータを炊飯器からとれる。
ー全ての家電が、プラットフォーマーのマーケティング場と化す、みたいなね。
そうそう。それで、あとでデータを活用できる分、スマート炊飯器自体の値段は、めっちゃ安くできる。
純粋な価格競争では、普通の家電より優位に立てる。
ー正しい。
実際、アメリカの大手スーパーのWalmart(プラットフォーマー)と、Comcast(通信メーカー)が最近、スマートテレビでタッグを組むと発表したんですよ。
これも、コモディティとしての家電の販売戦略から脱却することが狙い。
ーしかし、なんでもかんでも家電がプラットフォーマーにつながって、生活のデータがとられるって嫌だな。
本当に『1984』のビッグブラザーに世界みたいだよね。
ほんとに。
居間に設置された巨大スクリーンに監視される範囲からよけて、秘密の日記を書く。笑
ーそうそう。政府にしても、巨大企業にしても、自分のデータが常にとられ続ける違和感。
2.日本の家電メーカーの勝ち筋
『モノたちの宇宙』にも、そんなことが書かれてた。
これは人間という主体と、道具という目的物の境界線がとけあった近未来の話なんだけど。
<概要>近未来の世界。人間を支配するエイリアンは、身体を拡張した生きたバクテリアを道具として使い、道具と感情や記憶を共有している。とある人間はその道具と自分が常に「つながっている」気持ち悪さに気づく。
人間の世界に帰ってくると、周囲のモノが死んでいて安全なことに安堵する。
ーこういう世界になってくると、「スマート家電が一切ない別荘」みたいなのが高級な別荘として、人気出るんじゃないか。
何ともつながってません、ここなら、なんでも好きなこと出来ますよ、みたいな。笑
「つながらない贅沢」ですね。今でもある湖畔のリゾートの売り文句みたい。
ーそうそう。そういうところに皆休暇に行ったりする。笑
そういう意味では、「つながらない」家電は、高くついちゃうじゃないですか。
ーそうね。
そうなると、家電メーカーも、グローバルな価格競争に勝つためにはプラットフォーマーと手を組んで、データをとるモデルに変えないといけなくなるかなあ。
ーいやー。
東芝とかパナソニックとか、日本のホームアプライアンス業界が組む相手はどうなっちゃうんだろう。
米国のGAFAとか、中国のテンセントやアリババになっちゃうのかな…
ーいやいや、そうでもないんじゃない。
逆に、「つながらない」高級マーケットで幅を利かせられるようになるんじゃないかな。
えー、そうですかね?
ーうん。だって、めちゃくちゃ安い代わりにプラットフォーマーと接続したコモディティと、値段は結構するけどつながらない機能製品のバトルになるわけでしょ。
まあ、それはそうだ。
ーと考えると、日本がこれまで追求してきた高機能とかすごい技術とかが、「つながるコモデティティ」に対抗する競争力になるんじゃないかな。
なるほど。
ーうん。その高級市場へのニーズは高い気がするよ。
3.私のデータが正当に価格付けされる時代?
『1984』が嫌な人達ですね。
ーそうそう。
私も、炊飯器もカーテンもソファもGoogleとつながってるより、つながってない無機質な家具の中で暮らしたいなあ。
ーさもなくば、安い家電と引き換えに、自分のデータを差し出す。
結局、「つながる」家電と、「つながらない」家電の価格差が、私のデータや個人情報の値段ってことになるじゃないですか。
ーそうね。今は、無意識にタダでデータを差し出しているに近いからね。何らかのアプリやサービスを安く使う引き換えとして。
そう考えると、「つながらない」贅沢がちゃんと定義されて、データがちゃんとプライシングされる、見える化されるってのは、ある意味健全だしフェアな感じもするかも。
ーまあそうだけど、その価格を払えない人達はデータで払う、ってのはやっぱり気持ち悪い気もするけどね。
まあ、その問題が表面化しづらい今よりはましかもしれない。
こういうディストピア的な話って、ミーハーであまり好きじゃなかったんですけど、アメリカに住んでいると意外とこの未来って近いんじゃないかって思い始めました。
ーそうかもね。やっぱりアメリカはベースにレガシーが無いから、どんどん新しい形態に進んでいってると思うよ。
ですかね。
ーうん。それに対して、日本は既に作り上げちゃったレガシーが大きい。
その分、国内のエレクトロニクス業界のDXとか、全然これからでしょう。
そうかもしれない。
さっきの「日本のメーカーが高級市場をとれる」っていうのも、その動きに置いて行かれた結果、そうなるだけかもしれない。笑
いいんだか悪いんだかですね。笑
ーでも、デジタル時代の日本の産業界に、次のウェーブが来るかもしれないということで。
明るく終わった。笑
ーはい。笑
はあ、あと2週間くらいまた忙しいや。
身体に気を付けて、ファイトです!
ーありがとう。ではではー。
(…Facetime終了)
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