善のシグナリング?:何を言い、何を言わないか、それが問題だ。
1.「沈黙する者は反対派」なの?
(…Facetimeの呼び出し音)
ーもしもし。
こんにちはー。調子はどうですか。
ー1週間ほど休んで、徐々に通常営業ですよ。
それはよかった。
ほんと健康第一です、フィジカルもメンタルも。
ーありがとう。スミさんはどうですか。
「Black Lives Matter(BLM)」関連の動きが、毎日報道されてる。
ー日本のニュースでもやってるよ。
BLMの話自体は今回は一旦横に置きますけど、アメリカ国内の企業や大学のレスポンスが興味ぶかかったです。
いろんな組織から、意思表明があったよ。
ーほう?
私の大学は、学長と全学部長の連名で「我々はこの運動をサポートします」という趣旨のメールを送ってきましたよ。
ーそうなんだ。アメリカらしい。
Uberからもメッセージが出たり、スタバが従業員にBLMのTシャツ着用を許可したり。
あと出前アプリのPostmatesは、”黒人経営のお店を応援しよう!”と掲げて、デリバリー費用を免除したり。
(出前アプリ"Postmates"のメールより抜粋)
ーそれもなかなかすごいね。
こっちの友達に今どういう雰囲気か聞いたら、ベースには「社会問題について自分のポジションを示さないことは好ましくない」っていう考え方があるみたい。
デモに参加するモチベーションも、一部は「virtue signalling(善のシグナリング)だと思う」って言ってた。
ー沈黙は、「中立」じゃなくて「反対」と目されかねないってことか。
そんな感じ。
もちろん人それぞれ、って前置きはしてたけど。
ーなるほどね。
企業や大学は自分のビジネスとの関係で、リアクションの判断が難しいかもしれないね。
2.問われるスタンスの中身
そういえば「企業が政治的スタンスをとるべきか?」っていうアメリカの消費者調査があって。
ーほう。
皆が異論ないような、「育児休暇の推進」とか「DVの防止」とかのテーマは、企業がスタンス示すことに消費者は基本的に賛成らしい。
ーなるほど。
逆に、銃規制とか中絶みたいな微妙なトピックは、示すべきと思ってる人はだいぶ減る。
参考『企業が社会スタンスをとることは適切か?消費者の賛否』
(ハーバードビジネスレビューより)
ーふーん、それでも結構な消費者がスタンス提示に賛成なんだね。
製品やサービスが直接関係しない場合が多いだろうけど、企業のポジショニングを求めてるんだ。
そうなのよ。
個人的には、社会問題と無縁でいたほうが企業イメージをクリーンに保てるような気もするけど。
ーまあ、アメリカ社会って社会公正の建前や理想に、重きを置く風潮があるよね。
80年代に始まった「ポリティカルコレクトネス(政治的公平性)」とか。
3.ラベリングされがちな現代。
でも難しい部分もありそう。
たとえば今、警察の組織改革も一大トピックになってるんですけどね。どんな制度、組織もポジネガがあるじゃん。
ーうん。
でも、警察のポジティブな点を評価する発言すると、「お前はRacist(人種差別主義者)だ!」って一括りに紛糾することもあるって、友達がこぼしてた。
ーアメリカに限らずだよね。
何か意見すると、テーマ全体について「○○派」「○○主義者」とか極端なラベルがつきやすい。
うん。
安全保障の関係ですぐ「お前は右翼/左翼だ!」ってなったり、政治の関係で「政権擁護/批判だ!」ってなったりとかさ。
ーそうやって炎上するとそこだけ取り沙汰されて、肝心な問題の実論まで辿り着かないよね。
うん、結局炎上するような「話題」に飢えてるだけって感じもする。
昔はもっと大らかだったのかな。高度経済成長期で皆がイケイケだった時代とか。
ーどうだろう。
そんなことないかなぁ。
ーやっぱりSNSによる影響が大きいんじゃない?
匿名で攻撃的な意見を出しやすいとか、拡散しやすいとか。
そうかもね。
炎上するものに集まるってのは人間の本質な気もするし。
ーそんな気がする。そんな数十年で本性は変わらないよ。笑
そうかも。笑
じゃあ今日はこのくらいでしょうか。いい時間。
ーはい。
とりあえず今はいろんな事件起こってるみたいだし、スミさんは身の回り気をつけて。
ありがとうございます。
じゃあコイさんも無理せずお過ごしください。
ーありがとう。ではまた。
はーい。ではでは。
(…Facetime終了)
★参考文献★
「In reversal, Starbucks will allow employees to wear ‘Black Lives Matter’ T-shirts」Washington post
「Is it appropriate to take a stand? What Consumers think」Harvard Business Review
「Fox News talks about ‘cancel culture’ and political correctness a lot more than its competitors」Washington Post
『現代思想のパフォーマンス』難波江 和英、内田 樹(光文社新書)