吉田秀和 『世界のピアニスト』

(2020年の34冊目)恐れ多くもわたしを「現代の吉田秀和」と(なかばふざけて)呼ぶ友人がいるのだが、実は吉田秀和の文章に触れたことがないまま過ごしてきたのだった(本棚にあるクラシック音楽の評論家の本といえば、宇野功芳ぐらいなもので、ここ15年ぐらいはほとんど批評とか評論に触れていなかった)。このまま読まずに過ごすかな、とも思っていたのだが、ここ最近20世紀の前半に活躍した演奏家の録音をレコードで収集しはじめてていて、ディスクガイドになるかな、と思って本書を読んでみた。

ああ、こういう文章の人だったのか、と感心しましたですね、というかコレ、まるっきりプルーストの小説みたいで。評論、と言いつつも、かなり個人的な思い出語りになっていて「ずーっと実演を聴きたかったんだけど、ついに聴けなかった」とか「聴けたんだけど、まったく覚えてない」とか綴ってしまっている。それがめちゃくちゃ「メロウはいつも過去形」って感じで良い。

あと表現も的確だよなあ、と(舐めてんのか、という感想かもしれないが)。そもそも吉田秀和の評価がすでにこれを読む前から間接的に入ってきている可能性が高いのだけれど(老齢のホロヴィッツの実演に触れてひびの入った骨董と評したのとかなんとなく知ってたし)、たとえばリヒテルとギレリスの比較にしても、ギーゼキングやブレンデルの音楽にしても、そうそう、そうだよね、と共感するものが多い。そういう文章だからこそ、あまり多感で影響を受けやすい時期に読まないで良かったな、とも思う。この価値観に耳が固定されてしまう、というか。

サブスク時代は、こういう本を片手に録音を聴いていくのが楽しいね。

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