その音楽の動きや機能からテンポを考える〜モーツァルト交響曲第39番第1楽章序奏を例に〜
K.543の冒頭2/2adagioとなっているが、これが2/2呼吸を実現している例はあまり聞かない。テンポの問題である前に、速い4/4乗りになっているだけであることが少なくない。
この呼吸が見えないのは、この冒頭の「音楽」の起点がどこにあるのか、帰着点がどうなっているのかが見えていないことに原因があるのだ。だから華麗で性格の強い骨格のある音響を並べるだけの演奏に終始してしまうのだ。
それは例えば、K.425についても言えることだ。この冒頭の運動が見えていないから、あたかも8分音符の音楽のような呼吸で、尤もらしい音響を並べる演奏をしてしまいがちなのも、この冒頭3小節間の「形」がわからないからなのだ。
K.425の冒頭は小節の3拍子の運動によって3小節めに叩きつけるような衝撃を齎す。
①0 ②1 ③2 |① 3
つまり、0小節めのインパクトによって冒頭の8分音符が、付点リズムを引き出す。そして、それはそのまま2小節めの8分音符のアウフタクトとして機能する。そして、そのインパクトの反動が付点リズムを打ち上げる。そして、それが3小節めの八分音符にアウフタクトを伴って落下する。その反動で土煙のように付点リズムが起こる。
ここにはそのような一連の運動の流れがある。この運動の骨組みがわかると、この付点リズムが、単なる装飾的なものではなく、音楽自体を牽引する脈動そのものであることもわかるだろう。
では、K.543序奏2/2adagioはどのような運動なのだろう。
1小節の動きに注目してみよう。これは最初の2分音符と後半の付点リズムとに分けられる。この2分音符と付点リズムの括りとは「一つの息」にまとめてはならない。そうしてしまうから、性格のわからない音響だけで終わってしまう。2分音符はきっかけですあり、その反動で付点リズムが立ち上がるのだ。
そして、その付点リズムは2小節頭の四分音符のアウフタクトとして機能している。つまり、2小節めは、その「四分音符」と「そのインパクトの反動で起こるリズム」とに分けられる。この「インパクト反動のリズム」はそのまま3小節頭の2分音符のためのアウフタクトとして機能する。
このような小節間を結ぶ運動性が掴めると1小節めの前にある、書かれていない0小節の仕事がなんであるかも焦点がはっきりしてくるだろう。
つまり、0小節目を起点するこのフレーズは、6小節めに帰着する小節の6拍子で出来ているのだ。
さて6小節に帰着した音楽は、今度は3つの小節を分母とする3拍子として動き出す。その分母変更は7小節めと8小節とがスラーで括られていることに起因する。この3つの小節を分母とする3拍子によって一気に15小節めに辿りつく。
そこからは小節の6拍子→4拍子のリレーで序奏を纏めている。
以前書いたように最後の25小節めはallegroの小節二つ分と等価になり、ギアチェンジ的に主部へ移行する。※主部は二つの小節を分母とする7拍子として開始される。
さて、このような運動機能的な素因数分解によって、この序奏を俯瞰することが可能になる。
単なる変ホ長調のヒロイックな音響の羅列ではなく、機能的にこの音楽を見通すことができると、2/2adagioのテンポ感もよく理解できる。
このテンポ感をHob1:100や102における2/2adagioのテンポ感と対照してみると応用が充分可能であることもわかる。Hob1:101や103の3/4adagioがその応用であることもこのテンポから判断出来るものになる。
つまり、2/2adagioが「常識」のテンポ感とは少々趣きも呼吸も違うことも見えてくる。先週も書いたように2/2と4/4とは性格や呼吸が違うものである。
記憶からの比較論ではなく、楽譜からの考察によってその差別化を明らかにする必要があるのだ。
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