マッチングアプリで知り合った彼との初めてのキスはXXX味でした。なんならXXXちょっとかけました。そんな最低最悪この世の終わりの姿を全力で見せた後、彼はわたしに彼女になってほしいと言いました。わたしたちは肉体関係はありません。もしかすると彼はほんの少し何かが壊れているのかもしれません。わたしもほんの少し何かが壊れています。似たもの同士なのです。近頃の行動と相反しますが、夏頃からわたしはセックスができなくなりました。原因の心当たりはいくつかあって、彼に全てを話してもなお傍にいて
控えめに言って、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。すごく合ってしまって。マッチングアプリで知り合った方と会いました。LINEのやり取りの時点で笑いを堪えて肩震わしちゃうんです。なので会うことが楽しみな反面こわくもありました。唐揚げにレモンをかけたらレモンをかける前の唐揚げには戻れませんから。その日は雨が降って街がキラキラしていて、人の熱気がもくもくと漆黒の夜空に膨らみ、まるで東南アジアの知らない街を歩いているようでした。テキーラで乾杯をしてたくさん笑って、揃ってべろべろに酔いま
わたしって一体、何重人格なのだろうと思う時がある。何度もある。その場面や相手に合わせて対応をしているうちに、たくさんの人格を宿して。そのどれもが確かに本当なのだけれど、本物がどれなのかわからない。全てを曝け出しても、アイシテクレル?全ての人格に共通している点は、地の底より深く、深く、欲深いところだ。
久しぶりにマッチングアプリをぶん回した。そのくらい秋も来ず、何もかもに飽き飽きしていた。スワイプの海を漂流した果てに5人が生き残り、会ってみたいと思えたのは、2人だった。内、趣味が合いそうな1人とは予定が合わず、のらりくらりとしたペースのやり取りで、それが永遠に続きそうだった。このペースでは永遠に予定は合わない。もう1人はプロフィールの写真がタイプだった。わたしは押しに弱いため、先方の押し出しにより、とりあえず会うことにした。やって来た男性は写真の顔面とは遠く、ただのちんこだ
富士山って、赤くなるってご存知ですか? わたし知らなかったんです。朝日に少しずつ照らされて、赤に染まる山肌。とても美しくて、また見ることができたらいいなって、終わる前から次を願ってしまった。 会うとか会わないとか。合うとか合わないとか合わせるとか。予定だとか性格だとか身体だとか。一瞬の気持ちの高揚で何度も駆け出したこと。会ったり、合ったり、合わせたりしたこと。自分から関係を絶った人、絶てない人。一部を、全てをこの身体は覚えているのに、心は空っぽになったよ。
熱帯夜。ふと目覚めて、孤独に包まれる。カーテンから差し込む灯りを眺めながら、きっとこうしてひとりで死を待つのだろうなと思う。夫はもう忘れているかもしれないけれど、付き合い始めた頃に一緒に死んでくれるのかと尋ねたら、一緒に生きたいと彼は答えたことを思い出した。そんな彼は今日も隣で眠っているが、わたしはひとり暗い部屋で横になっていることがこわくなる。世界にひとりだけになったような孤独と絶望で胸がざわつき眠れない。街灯に集まる虫たちのように灯りを求めてキッチンへ行き、一杯の水を飲ん
心がぷちっと切れた音がした気がしました。 3年間続いた関係を終わらせました。名前のない関係でした。 案外悲しくないと思っていたけれど今朝起きると、熱々のアスファルトにぽつぽつと大粒の雨が落ちて染み込んでゆくように、ぽつぽつと悲しみが降って、わたしの心に染み込んでゆきました。彼のシルエットがどんどん美化されてゆくので、嫌だったところを必死で思い出します。 スマホを開くと、もう返信はないだろうと思っていたメッセージに返信がありました。最後まで嘘と本当が混在していました。ごめんなさ
真夜中に熱々のおにぎりを結ぶ。 こんなに熱いお米を握るのは、随分久しぶりだと思った。手のひらの中で転がったおにぎりに海苔を巻いてパリリと鳴らしながら、夫とふたりで食べた。 そんな贅沢な悩み、何もかも手に入るわけないじゃない。全て自分で選んだことじゃないか。友人に向けてそんな言葉が出かかったが喉の辺りで引っ込めて発さなかった。息をするように嘘がつけてしまうこのくちにそんなこと言われたくないだろうなと思った。 むせ返るような湿気の中に、ずっと閉じ込められ、いや、閉じこもってい
子宮のなかの1cmの肉片を切り取った。子宮内膜ポリープというもの。確実に私の身体の中の出来事なのだけれど、目に見えない手に取ることのできない意識もしないけれどそこに在る子宮は、どこか他人のように思える。わたしの中の、よく知らない女性。彼女が何の意味もなく知らないうちに育てた小さな肉片。肉片どころか彼女は人間まで作り出すらしいのだから、宇宙と同レベルの不思議でしかない。そういった事を考えるともなく考えているうちに眠っていて、目が覚めると全てが終わっていた。
セックスが、できない。 他の男性とはできるのに、彼とだけできない。触れたい、触れたい、触れたい。しかしいざ誘われると、いやぁ、今日はちょっと…首の後ろ辺りをぽりぽり。と、まるで上司からの飲みの誘いを断るハの字眉毛のくたびれたサラリーマンのように言い訳を始める。後から、あああなんでしなかったんだろうと後悔をする。大事な何かを立たせず、後悔先に立たず。 彼とセックスをしたら、パンドラの箱を開けてしまう気がして怖い。何かが起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。剥き出しの
振ったらカラカラ音がしそうなくらいに渇いていて。カラカラのカラって空っぽのカラから来ているのかしらと、熱いシャワーを浴びながら考えた。人のぬくもりを忘れて、もうこのまま忘れてもいいかもなんて。 春はよく雨が降る。また今年も目がチカチカするピンク色の花が、わたしの苦手な花が咲き始めるのかと思うと少しぞくっとする。春の冷たさと生温かさは、なんだか少しこわい。
ベッドの上の彼は美しくて、仄暗い照明のなかでわたしを見下ろす姿をちらりと覗き見てはそのたびに眩暈を起こしそうだ。その美しさにいまだ慣れない。この美しいというのは例えばダビデ像を眺めて美しいと思う感覚と似ており独り占めではなく誰かに見てもらいたいとすら思う。瑞々しい肌を撫でて身体を支え合うように指がきつく絡む。襟足に薄らとかいた汗は白いシーツに溶け胸にのし掛かる重みは心地の良い苦しみ。いたずらっぽく身体の輪郭を這う指先からはビリリと電流を流されているかのようでわたしは震えが止ま
パキ、パキ、と音がした。周囲には誰もおらず、足の裏で何かを踏んだようだった。小枝か、木の実か、小石か。一瞬で過ぎた足元に視線は追いつかなかった。顔を上げていなければ、転倒してしまう。イヤホンからの音楽で周囲の音は聞こえにくい。脚は地面を蹴り続け、腕は振り子のように止まらない。ほとんど無意識の世界、まるでわたしの身体ではないみたい。何を踏んだのだろう、とだけ考えた。何も、誰の事も考えなかった。一瞬だけの空っぽの時間。あっという間に日は落ちて、街灯に照らされたわたしの影は長く伸び
エレベーターに乗り込むと、両手で頬を包まれ、彼の顔が近づいて影を落とした。わたしはずっと視線を逸らさなかった。ぬるい、なまっぽいキスだった。あら、こんなキスをする人だったかしら?と、記憶を巡らせていた。もっと柔らかくて吸い付くような、何回でも触れたくなるような唇だと記憶していた。キオクではなくキモチの問題なのだろうかと、二度目のキスをしながら考えていた。ふわりと繋いだ手の感触は変わっていなかった。分厚いむちむちとした、ポンデリングのような指。彼はその指で、わたしに初めて触れる
「恋愛や結婚において、貴方の主体性がないように感じるけれど、それで貴方は幸せなの?」と尋ねた。早朝走りながら、昨夜のその質問を思い出し、愚問だったなと思った。 わたしもそうだから。ただ流れて、どんぶらこどんぶらこと揺れて。逃げる。「貴女が船で、男性側が港だ」と彼は言った。ふつうは逆じゃないの?と笑ったけれど、言い得て妙だと思った。 自分を守るために一定の距離を保つほうが楽だ。もう嫌なんだもの、逃げたい。きらい。関われば関わるほど、心がするすると溶けてなくなってゆく。何もか
毎夜Tinderをスワイプし続けたり、誰かに会って身体を重ねていた頃のわたしは、どこか狂っていた、のかもしれない。 それが止んだ今、わたしの身体はたくさんの血を流すようになりました。ついに壊れた、としか思えないのです。その赤が、わたしの心まで真っ赤に汚すのです。