走る
パキ、パキ、と音がした。周囲には誰もおらず、足の裏で何かを踏んだようだった。小枝か、木の実か、小石か。一瞬で過ぎた足元に視線は追いつかなかった。顔を上げていなければ、転倒してしまう。イヤホンからの音楽で周囲の音は聞こえにくい。脚は地面を蹴り続け、腕は振り子のように止まらない。ほとんど無意識の世界、まるでわたしの身体ではないみたい。何を踏んだのだろう、とだけ考えた。何も、誰の事も考えなかった。一瞬だけの空っぽの時間。あっという間に日は落ちて、街灯に照らされたわたしの影は長く伸びた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?