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森茉莉の外周を読む

森茉莉の作品を読もうと幾度か挑戦したものの、その度に挫折している。

腐女子の端くれとしては、偉大なる先達の「恋人たちの森」と「枯葉の寝床」くらい履修しとかないとモグリだろう、との思いは常にあるのだが、後ろめたさを抱きつつも未読のままだ。

小説が駄目ならエッセイを……と思って有名な「贅沢貧乏」を手にとったが、内容をまったく覚えていないので、おそらく最後まで読んでいない。

強烈なナルシシズムや癖の強い文体が合わないのだと思うが、決定的に受けつけないのは彼女の重度のファザコンぶりだ。

実の娘によるこれでもかという父親の礼賛と仲良しエピソード。
近親相姦スレスレの作者の感覚に、実父との折り合いが悪い私などは「勘弁してくれ〜〜」と涙目だ。

余談だが上にきょうだいのいない私は、きょうだい間の近親相姦は平気で読めるので、そういうものかもしれない。

では森茉莉が嫌いかというとそんなことはなく、むしろ気になっているからこそ、苦手意識を克服して読めるようになりたいと願っている。

豊潤かつ発酵度合いも抜群の森茉莉迷宮への手引書として読んだ「贅沢貧乏のマリア」(群ようこ)と「幽界森娘異聞」(笙野頼子)はいずれも面白かった。

同一人物を扱いながら切り口がまるで異なるのが面白い。
私と同じように「気になってるけど昔の作家はとっつきにくそう」というライトなユーザーには是非おすすめしたい。

乱暴に説明すれば、前者は森茉莉を「暮しの手帖」的に読み解いたエッセイ。後発の「幽界森娘異聞」は、群ようこを当然踏まえたうえで書かれた私小説だ。

森茉莉は世間知らずのだらしないお嬢さま、とのイメージがあったが、というより今もそう思っているが、「幽界森娘異聞」で知った実子を捨てて離婚したエピソードが、妙に気風がよくてかっこいい。
まるで「とりかえばや物語」の女君みたい。
あの話も女君は生き別れた息子と後に再会して良好な関係を築いたりしている。

生まれてくる時代を千年ほど間違えた人だったのかもしれない。

晩年が悲惨、とのイメージもまた色濃い作家だが、あの森鴎外の長女に生まれ、乳母日傘で育ち、裕福な家に二回嫁いで二回離婚、子ども有り。という超絶リア充なのも忘れてはいけない。

やっぱり森茉莉は嫌いかもしれない。

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