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大人的読書感想文 vol.1

 小学生の頃、読書は好きだったが読書感想文は好きではなっかった。
 何を書いたらいいのか分からなかった。ただ、語彙力がなかっただけかもしれない。

 別に大した経験もしていないし、たくさん本を読み漁ったわけでもないけど、大人になった今、本を読むととても感想を書きたくなったのだ。きっと原稿用紙に書いて提出したら怒られるような感想になるかもしれないが、宿題じゃないから好き勝手に書いたっていいよね。


どうしても生きてる 朝井リョウ

 記念すべき一冊目はこちら。『何者』は映画で見たことあるけど、朝井リョウさんの本を読んだのは初めてだった。これは6つの短編小説で構成されていて、多分、小説幻冬に掲載されていた6つの作品を単行本化したんだと思う。

 マッチングアプリで出会ったり、YoutuberやQR決済が流行っている世界、東日本大震災、どれも現実に起こっていることが小説の中でも起きているので、もしかしたら今日すれ違ったあの人の話かも…と思えるくらい、とても現実的に話が進んでいき、6人の人生を覗き見しているような作品だった。

ここからはそれぞれの話ついて。

「健やかな理論」
 この作品が一番共感できたかもしれない。みんな健やかな理論に安心して、理論通りにいかないから悪いのだと決めつけている世の中に、そうじゃないんだよなあと思っている気持ち。辛くてたまらなくて死にたいが限界になるから死ぬのではなく、ふとした時に生きていることに対して「別にもういっか」という気持ちになってしまうこと。年齢や仕事が違っていても同じことを考えている人がいるということにとても安心した。例えそれが小説の中の人だとしても。

「流転」
 一番ドラマチックだったかも。着実に夢に向かって進む友人とぶつかった壁を乗り越えずに夢を諦めた主人公。夢を叶えるには自分の指標だけではどうにもならないこと。時には人の意見も聞き入れる必要があること。彼が同じような後悔をしないように教えてくれているようだった。あっさりを夢を放り投げたことに対する後ろめたさを抱えたまま、どうにか自分なりに生きていく彼がどうか報われてほしい。

「七分二十四秒めへ」
 派遣社員と正社員。雇用形態で格差が出てしまう現実。あの人にとって嫌いなものが私の命を引き延ばしていること。私もYoutuberに苦手意識を持っている方の人間だが、「脳が溶け、音を立てて偏差値が落ちていく」感じを味わうために動画を見続けているという理由になんだかしっくりきてしまった。そういうのを求めている人がいるからこそ彼らYoutuberは今日もくだらない動画を上げているのかも。

「風が吹いたとて」
 「考えることは、半径五メートル以内にたくさんある。」という言葉。すごく分かる。考えないといけないことはたくさんで、正直自分のことで精一杯。そうやってきっと世の中は誰かが変えてくれるって人まかせにしちゃう。でも、みんなそうなんじゃないの?誰か一人がドーンと世界を変えられるわけはなくて、一人一人の小さな力で少しずつ世界を変えることはできるかもだけど、自分のことで精一杯な人にはそんなこと考える余裕すらないんだよね。

「そんなの痛いに決まってる」
 大人になっていくと思ったことを素直に口にできないこと。確かにちょっと窮屈だ。これを読んでいるとき、不倫は本当に悪いことなのか?という疑問がずっと頭に残っていた。性的欲求を満たしたい、自尊心を保ちたい、誰にとっても誰でもない存在の人がほしい。それが彼は不倫という形になってしまって、彼の元上司はSMの世界だったんだよね。誰にとっても誰でもないという存在が私にも必要になる日が来るのかな、と思ったらちょっと怖かった。

「籤」
 人生は色々な選択があって、それは籤引きのようにあたりとハズレがあるような気がしていて。ただ、自分が引いた籤がハズレかと思っていたらあたりだったりする。いくらだって籤を書き換えるように生きることはできるみたいだ。彼女のように、どんな状況だろうと前に進んでいけば。人生は私が主演の舞台だと思って生きていくのも案外楽しいのかも。

 以上。全て読み終わった時、それでもみんな生きていくんだよなあ…という気持ちになり、タイトルの『どうしても生きてる』という言葉がすごくしっくりきた。私の人生も大した話はないけれど、生きていくことに対しての思いの丈を綴ったら、この6人と一緒に私の話を載せてくれるのでは?というようなくらい、何気ない人たちの話であることが心地よかった。
 明日、何かが変わってしまうような出来事が起きるかもしれないし、そうじゃないただの平凡な日かもしれない。何もできなかった自分に絶望するかもしれないし、生きててよかったって思うかもしれない。結局はまた明日も生きていくんだよね。


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