濃霧の森を抜けたら青空があった。Mr.Children「In the pocket」
Mr.Childrenの魅力は多数ある(言うまでもないが)。
そして、彼らのどんな部分を魅力的に思うかも
当然のことながら人それぞれである。
みんなが求める「ミスチル像」に応えてくれるところもそうであるし、逆にその「ミスチル像」を壊すような作品も届けてくれる。その大きな振り幅に振り回されることに、僕は魅力を感じているところがある。
8月30日より配信スタートとなった
Mr.Childrenの最新作「In the pocket」。
今作はどちらかといえば
「みんなが求めるミスチル」感を感じた。
「暗く陰鬱」という、ある種のミスチルにとっての原点回帰を目指したアルバム「miss you」〜シングル「記憶の旅人」の長い森を抜けると、すっかり空が晴れ渡っていた、みたいなイメージの、実に明るくあっけらかんとした曲。最初の感触としてはそんな感じだった。
思わずヘッドホンで聴いてて、片足でリズムをとりながら軽やかに歩きたくなる。なんでもない日も何かあった日も聴ける、柔らかな1曲である。
全貌が全く掴めず、アルバムの1曲目が流れ出した瞬間にようやくその空気感を掴んだ「miss you」とは全く違い、ホーム感?というか、「やっと明るいミスチルが帰ってきてくれた!」という期待の気持ちがファンの間にも漂っていたのではないかと思う。
という、いわゆる「桜井節」。醍醐味の一つである比喩を用いた歌詞運びはもはや気持ちよさを通り抜けて安心感すら感じる。「ヒカリノアトリエ」や「ほころび」にも通づるような、JENのドラムの安定感あるビートも含めて、実家に帰ってきたかのような感じで落ち着く。
いい。何度もリピートしなくても
これは安心して「名曲だ」と言える曲だ。
そんな桜井節だが、近年はストリーミング参入やJPOPのトレンドの変化などを見据えて、「かなり言葉選びがストレートになっている」との旨の発言が以前桜井さんからあった。その通りで、あまり難解な比喩や言葉遊びがなく、ケレン味のないストーリーで歌詞が展開されているような気が私もしている。
一方、「わかる人にだけわかるちょっとした細工」
みたいなものがかなり増えたなぁとも思う。
例えば「靴ひも」との歌詞のリンクはどなたかがTwitterで気づいて指摘していたし。もしかしたら、歌詞の中で悲しみを置いていった「昨日のシャツ」も、「Are you sleeping without me?」で、コーヒーで汚してしまった「気に入りのシャツ」だったりするのかな、なんて。
桜井さんは時々、こうやって歌詞でファンだけにわかる合図を送ってくれたりする。一見広いオーディエンスを見据えて曲を作っているように見えても、実は狭く深いリスナーに対して「サイン」を届けてくれる。深い悲しみの底でも、吹っ飛ぶほど明るい祝祭の只中でも、桜井さんの歌詞作りに置いての変わらない部分が、僕は本当に好きだ。
この曲を聴いて、そしてアリーナツアーのセットリストを入手して振り返ってみる。そこで初めて「ミスチルにとってのコロナ禍はこのツアーを以てやっとここで終わることができたのかもしれない」と僕は思うことができた。
さて、4人はここからどんな世界に行くのか。
「この次」が来る日を、また楽しみに生きよう。
おしまい。
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