てぃくる 325 えんじゅ
「ねえ、おばあちゃん、これって何の花?」
「ああ、それね。枝垂れ槐」
「ふうん、なんか地味ぃ」
「あはは。そうね。まあ、縁起物よ」
「縁起物?」
「そう。中国でも、偉い人が庭に植えたそうだよ」
「うちには、ぜんぜん関係ないじゃん」
「そうね。今は何が何でも出世しろっていう時代じゃないしね」
「こんな地味な木じゃなくて、もっときれいな花が咲く木の方がいいなー」
「あら。あんたも偉くなろうとしてるじゃないの」
「え?」
「気付かないかい?」
「……」
「偉くなるってことは、人を下敷きにするか、誰かに持ち上げてもらうってことさ。黙って偉くなれることはないね」
「それが?」
「あんたは、きれいな花かどうかってところしか見てない。この木がどうしてここにあるのか、それにどういう意味があるのか。何も考えてないでしょ?」
「……うん」
「それは、人のいいところだけちょろまかそうっていう姿勢なの」
「ええー?」
「不本意かい?」
「そりゃそうよ」
「じゃあ、もう少し知ろうとしなさい。その相手が人であっても、この木であってもね」
「どして?」
「表だけを見て判断するってこと。あんたがそうすれば、あんたもそうされるの。それでいいの?」
「いや、それは……」
「でしょ? まあ、いきなり難易度の高い相手でやれなんて言わないよ。まず、このえんじゅから始めればいいじゃない」
「でも、今おばあちゃんに教えてもらっちゃったからなあ」
「何言ってんの。私が言ったのなんか表だけよ」
(2017-08-04)