#102 イギリスの懐の深さ① 〜貧乏でも子育てしやすい編〜
「教育費のことを考えると子どもは〇人までしか持てない‥‥」 そんなことを言うのを聞いたことがないだろうか。
高等教育に学費がかかることは仕方のないことだとしても、小学校時代から学校に着ていくものや持ち物にお金がかかりすぎるのはいかがなものか‥‥
書き始めてからの下書き期間があったので、先週の話になるが、出勤前の夫と他愛もない話をしていたら、「政府が学校の制服をもっと安く買えるようにするんだって」と教えてくれた。
これは来年度9月の新入生から導入されるという新情報なのである。
かねがねイギリスのスクールユニフォームは日本に比べたら随分と融通のきくものだと感じていた私だが、このニュースを聞いてさらに嬉しい。
過去23年間は英国で暮らしている私だが、ちょっと遡って日本での経験を話してみよう。
日本で学校に入学となると、制服を一式揃えるのにはかなりのまとまった金額が必要だった。そして、ここへ行けばうちの制服が買える、という学校指定の店から買うことになっていた。
もっと遡れば、私は高校時代に金沢では知らない人のいない、「学生服のオー〇モ」でバイトをしたことがある。
新年度の始まる前のかきいれ時で、毎日訪れる新中学生たちの制服が採寸され、注文書が作られた。大きな部屋に溢れかえった制服を手渡したり片づけたりするのが、高校生だった私の仕事だ。
制服上下を一式揃える人たち。
余裕がある家庭では洗濯替えに二揃え。稀に三揃えという家もあったと思う。そしてシャツやブラウスの数も、3~4枚を中心として、5枚買っていく家庭があれば、2枚という買い方もあった。
もちろん、その家々の考え方であるが、そこはそれぞれの家庭の経済状況が反映される場所であったといえよう。
今はどうなのかよくわからないが、おそらく自分で採寸してオンラインで申し込むのかな、と想像する。
新年度が始まる前には入学前の子どもを持つ家庭では特別な出費があるのは間違いない。
もちろん就学中にも成長に合わせてサイズが変われば買い替えという時期もある。
子どもの成長は嬉しくて目を細めることなのだが、その度の出費に「おいおい、ちょっと速すぎやしないか」と感じる人も少なくないと思う。
兄弟姉妹でおさがりを着るのは、親にとってはなんだかいいなぁと思う。とはいえ、性別が違えばできないし、学校が違っても制服が違うのでアウトだ。
イギリスではむやみに消費を煽ったり、みんなと足並みをそろえることを重視していない。
イギリスに来てみて、まず本当に良かったことはこれに尽きる。
うちの娘は、すでに前年9月から始まっていた小学校の初年度のクラスに途中入学した。まず必要だったのは、白か、水色のワイシャツ。どちらの色でもよいと言われた。
そして紺色のスカート。学校によってはこれがグレーであったりする。
そして学校指定のネクタイ。上着として、学校のロゴのはいったトレーナー。
後は何でもいいから黒い靴でよかった。
細かく言えば、靴下も、白か黒、茶か紺といった、概ね地味な色でオッケーだと。
そしてそれらは、いつも食料を買うようなスーパーマーケットの一角で買えたし、一枚が数ポンドといった、懐が痛む値段ではなかった。
それよりもすごいと思ったのは、どこの町のメインストリートにも必ず二つや三つはあるチャリティーショップに行けば、着古した感のない誰かのおさがりがもっと安く見つかることだった。
特にこれといったURLを引用しないので、興味があれば、charity shop UK と画像検索されればどんな感じかわかっていただけると思う。
女の子は、スカートであれば、それがプリーツでもフレアでもタイトでもよい。下の画像のようなピナフォー (Pinafore=日本ではジャンパースカートと呼ばれるスタイル) でもよい。
私好みで、娘はこんな感じのを着ていた。
そして夏になると、「今日から衣替え」なんていう一斉に変る日はなくて、個人の判断でそろそろ‥‥と思った人が夏服を着ていけばいい。
女の子のサマードレスはこんな感じ。
もちろん、これにもあらゆるデザインがあり、学校によって、青、緑、赤、そして黄色という指定の色だけがある。
上の画像は、とある学校 (URLあり) からお借りしたのだが、スクール指定のトレーナとはこんな感じで、女の子はトレーナーでもカーディガンでもよい。
男の子が手にしているバッグは、宿題や作品などを学校から持ち帰ったり、先生と親の通信ノートを入れるのに使われる。
日本のランドセルと比べてなんと薄っぺらいことか。値段も何百円で済む。そもそもイギリスでは自分の教科書というものがどの教科にも存在しないので、背負っていくほど重たい本もないのだ。
もちろん、私の頃には皆が一つずつ持たなければならなかった習字セット、裁縫箱、図画バッグなど、イギリスでは一切必要ない。
男の子はどの学校もほぼグレーのズボンで、夏服になると半ズボンに変わり、ワイシャツが半袖になる。
どこででも買えるし、学校の違う知り合いのおさがりでも大丈夫。
とにかく制服が大げさなものではないのだ。
しかも学校で指定された画一的なデザインではないところで、自分の好きなスタイルを選べるため、スカートの長さ (短さ) で自己主張する必要もないのかもしれない。
子どもが成長し、新しい学校へピカピカの制服を着て出かけるのを見るのは親として誇らしいことだ。
当然、そんな出費も喜ばしいことには違いなく、そのような親の楽しみを否定するつもりは全くない。
ただ私の思いは、家族が経済的負担を感じなければならないシステムなら、変えていけばいいんじゃないかということだ。
そういう意味で、特に中学校以降の制服が、指定業者からしか買えなかったのを、制服・体操服一式をどこからでも買える体制を変えていく英国政府に大賛成だ。
低収入の我が家でも既に二人がイギリスで大学まで卒業させてもらった。あと一人残る、日本でギャップイヤーを過ごしている次男だけが大学のために戻ってくるかもしれない。
こんなことは日本に住んでいたら無理だったはずだ。親ががむしゃらに働かなければ子どもに高等教育をうけさせてやれなかったなら、私は心を病んでいたかもしれない‥‥
いづれそんなことも書いてみたいと思う。
ここのところ立て続けにSDGsに関する記事を書いてきた私だが、イギリスのチャリティーショップは本当に素晴らしいと思う。
日本で断捨離が流行り、ゴミ袋何十個の物を捨てている人も多いと聞く。
私はまだ昨日までなんとなくそこにあったものが今日はゴミになるとか、他の誰かにとって役に立ちそうなものを捨てるというのが苦手だ。
チャリティーショップに持っていくというのは「捨てる」代わりに「寄付」させてもらうことになり、処分することへのストレスもなくなる。
今週末、私は Clothes Swap というイベントに出かける予定がある。
ひとり5点の洋服を持ち込み、その場で代わりの5点を選んで持ち去ることができるというシンプルな集いだ。
最後に先日通りすがったチャリティーショップの店先のディスプレーをシェアしたい。
はい、脚立です。
誰かが要らなくなった脚立を捨てないで、チャリティーショップに持ち込んだから。
誰かがテーマカラーを変えたらもう使わなくなったクリスマスデコレーションを、チャリティーショップに寄付したから。
こんなに素敵なクリスマスツリーになって道行く人の気持ちを温めてくれているのだ。
お金を使わなくても、工夫次第でオリジナルなクリスマスを楽しめばいいんだ、ということを子どもたちが学べる環境っていいなあ。