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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#130

24 維新の終わり(1)

 イギリス、ロンドンにつくと木戸からの文が届いていた。下宿の支度が整うまで過ごすことにしている、ホテルで馨はおそるおそる開けた。
 準備や様々なことが整わないため行くことを断念したと書かれていた。それは木戸自身が、いけないことを確信しているような内容だった。
「松さんの洋装が不細工だなんてありえんだろう」
 読んで感じた寂しさを紛らわすような言葉を口に出してみた。弥二郎が頑張ったところで、状況を変えるのは難しいだろう。自分がいても駄目だったことを、やってくれる人は多分いないだろうと思うのは辛かった。それは博文が自分とは違うのだと認めることになる。
 それにしてもと、木戸さんにはパリの博覧会に来るように言い続けるしか無いだろう。こちらにこられたら、同様に下宿を見つけて過ごせばいいのだ。
 考え事をしていると、武子と末子が帰ってきたようだった。
「おお帰ってきたか。どうじゃった下宿は」
「離れを借りることになりました。部屋の数も十分ございますし、台所など、見たことがないもので驚きました」
「家主のお家の人も優しそうでした。父上」
「それは良かったの」
「公使館の方々にも色々手伝っていただきました」
「明日は、わしからも礼を言っておく」

 翌日馨は公使館に顔を出して、近況を聞いた。そこで、歓迎会を開くので是非出席してほしいと言われた。留学生たちとも会える機会なので、是非もないと出席を約束した。そして、案内役の公使館職員とともに下宿先に向かった。
「井上さん、こちらは家主の経済学者ハミリーさんです」
「私は井上馨です。イギリスには経済の研究のために来ました。良い家をお貸しいただき、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
「それはよいおはなしです。わたしとしても、お話をお伺いしたい」
「昨日は家族のものが、先に拝見させていただき、感謝しております」
「実に明るいお嬢様と奥様で、家のものも親しくさせていただくのを楽しみにしてます」
「私の方こそ、これから楽しみです。色々ご助言をいただきながら、たくさん学ばせて頂きます」
 馨は今後のことを話をして、握手をして別れた。
 ホテルに戻ると、武子と末子に下宿に移ることと、公使館主催で歓迎会があることを伝えた。
「まぁ、私達も出席するのですか」
「当然じゃ。武さんもお末も公使館や留学生とも、世話になることになるじゃろ。はじめに挨拶しとったほうが気も楽ではないかの」
「たしかにそうですね」
「公使館の職員は、妻君同伴で来ているものも居る。おなご同士話することもええじゃろ」
「お末にもお友達になれるお人がおいでなら、うれしいですね」
「そうじゃの。それにお末には、勝之助にも親しくなってもらんとな」
「そうですとも、大事なことです。お末も楽しみでしょう」
「はい、勝之助さまに、お会いしとうございます」
「そうじゃろ」
 末子の伸びやかな笑い声が部屋に響いていた。馨は、この先の暮らしに期待が持てると思うとうれしかった。
 下宿に住まいを移した日、ここでの生活を支える家政婦がやってきた。
「奥様、はじめまして。キャシーと申します。よろしくお願いします」
「あなたが、キャシーさんですか。はじめまして。よろしくお願いします」
 末子が武子を支える立場となって、通訳をしていた。
「奥様には、家事周りのことを含め、日常必要なことをお教えするよう、申し付けられております」
 そう挨拶をするキャシーに対して、格式張った硬さを感じた武子は、少し恐怖心を持ってしまったようだった。多少の問題も含みながら、こうして井上馨一家の新しい生活は幕を開けた。

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瑞野明青
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