【#7】あの夢をなぞって/散文
夏の終わりの夕方に吹き抜ける風は生温く、虚しい。
君はいつも偽りばかりを申す、それは偽りであろう? と言いたいところだけれど、君はいつも偽りの中に誠のことを申すから、僕は君の本当の気持ちがよくわからなくなってしまう。
君は嘘をつくのが上手いのに、僕に好きだとは言わない。
この街に、この道に、あの場所に長く留まりすぎたのかもしれない。
君は付き合うよ、僕と。
思い出はいつも後ろ髪を引く癖に、振り向いて思い出の尻尾を掴めたことは一度もない。
こうやって文章の中に仕込んでサブリミナル効果を狙ってみる。
君には僕を幸せにする力がお有りなのに、それを使ってはくださらないのですね。
夏の夜空にはくっきりとした綺麗な半月が。
誰も僕が本当に夢を叶えるとは信じてくれていない。
応援しているとは言ってくれるけれど、真剣に僕の小説を読んで感想をくれた人は誰もいない。
僕が真剣に書いた小説に、真剣に向き合ってくれた人は一人もいなかった。
だから僕はずっと孤独だった。
孤独なまま、一年、次の一年とずっと机に向かっていた。
そんな中、僕の心の中にあった情景は、穏やかな子供の頃の日々だった。
またあの頃のように、このメンバーなら本当に世界を変えられると思った全員で遊びたいと思っていた。
もし僕が小説家になったなら……それは可能かもしれないと思っていた。
でも、そっか、籠球の君は結婚してしまったんだね、思い出の中の君が、いつも思い出して懐かしんでいた君が、現実ではもう結婚してしまったんだ。
もう思い出の中の僕に片思いをさせておけないんだ、あの日々を繰り返しなぞってあの感情を今までと同じように慈しむのは出来なくなったんだ、籠球の君が僕たちの夢ではなくて、現実の幸せと手を組んでしまったから。
君は僕とは違う方法で幸せになってしまったから、もう僕の思い出の中の君じゃないんだ。
普通の幸せってなんなんだろうね。
僕には僕が夢を叶えていく道中、ずっと側で支えてくれる人の存在が必要なのに。
そしてそれは初恋の六年間も好きだった籠球の君でもなく、死んでいた僕の人生を生き返らせた看護師の始まりの君でもなく、僕が一緒にこの生を終わりたいと思っている終わりの君なのに。
終わりの君は、僕と一緒に最期までこの人生を走り抜きたいとは思わないか、
思わない、か。
僕はまた君が異動したら一人ぼっちになっちゃうんだね。
そして君とは違う不誠実な人ばかりの世界で、不幸に生きていかなきゃいけないんだ。
僕が今まで生きてきて、誠実な人に出会ったのは二回だけ。
一回目は僕が君に恋をして、君の為に誠実に生きたいと思って生まれ変わったとき、
二回目は君、君が誠実な言葉を四日間もずっと語りかけてくれていたとき、
だからこの世界に誠実な人間は、僕と君だけ。
お互いに理解し合える誠実さを持っているのは、僕と君だけ。
他の人の誠実さは僕にも合わないし君にも合わない。
そこまでわかっていても君はまた偽りを申す。
それは偽りであろう?
僕はずっと待っているよ。
僕が君に告白して頭を下げて、片手を出して、その手を握ってくれる瞬間を。
その日は断っても、後日連絡をくれるその瞬間を。
僕の為に勇気を出してくれる瞬間を。
僕は楽しみに待ってる。
君も楽しみで居てくれることを切に願う。
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