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メリットのない対局なんて――連載「棋士、AI、その他の話」第38回

 柵木幹太四段はまんがタイムきららのガチ勢である。
 まんがタイムきららは芳文社が刊行している4コマ雑誌の名前であり、またそこに掲載された作品群のレーベル名でもある。20年以上の歴史を重ねるきららは、それまで中年層以上を対象としていた4コマ漫画の世界に「萌え」という要素を史上初めて大々的に取り入れ、若年層への浸透を図った。その試みは革命を起こした。かわいらしい絵柄で日常に起こるささやかな笑いを描いたきららの漫画は「日常系」という概念を生み出し、次々にアニメ化されて若者に広く受け入れられた。「けいおん!」「ゆるキャン」「ぼっち・ざ・ろっく!」など特大ヒットも定期的に誕生している。きららは4コマ界の歴史を変えたのだ。
 柵木四段はそんなきららの大ファンであることを公言している。Xでは「まんがタイムきらら展」に訪れたことを報告し、初めて書いた棋書ではコラム「精神安定剤」の題できらら愛を語っている。かなりマニアックなキャラクターを取り上げていることからカタギではない。相当きららが好きなのだとはっきり伝わってくる。
 実は筆者も、刊行作品を全て読むほどのきららファンである。生きていて何度もきららに救われてきた。だから柵木四段には特別なシンパシーを感じる。どんどん活躍していってほしいと心から願っている。

 そんな柵木四段が映像の中にいる。2025年1月22日棋士編入試験、柵木幹太四段-西山朋佳女流三冠。柵木が負ければ、史上初の女性棋士が誕生する。

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