子供は誰の子なのか(母と私と大河ドラマと、ちょっと弟の話)
日曜日の昨日、私は朝からスタジオ練に行き、夕方前に帰ってきてそのまま寝てしまった。
21時前だかに起きて化粧を落としていると、バラエティの特番を見ていた母が話しかけてきた。
「今日の大河ね」
うちはBSがあるので、母はいつも、大河ドラマは18時からの最速放送で見ている。
19時からはニュース、20〜21時台はバラエティを片手間に見ながら何かをするというライフスタイルだ。
一方私は、アマチュアの楽団に入って楽器をやっている。
基本の練習日が日曜日の夕方なので、大河ドラマを見る習慣はなくなった。
後追い視聴もしないし基本的にネタバレ(史実)があるジャンルなので、母の感想にネタバレが入っていても構わない。
ちなみに今季は、SPY×FAMILYだけネタバレ箝口令を敷いてある。
今日はいつもとは違って大きなスタジオを取っての特別練習だったから、私は帰ってきて夕方から夜まで寝ていた。
夜に練習がなくても大河を見るには至らなかったので、母の語り出しを止めずに、化粧水を顔に馴染ませる。
「茶々が秀吉に『秀頼はあなたの子だとお思い?』って言ってて」
鎌かけてる風にも聞こえるよね、と母の声色が鮮やかだ。
豊臣秀頼は秀吉と茶々の間の子という史実を知った上で、なお。
「で、その後『私の子です』って続けて、すごい台詞回しだよね」
それを言ってのけた茶々というキャラクターが、母の好みにはまっているだろうというのは分かる。
母はドラマ鑑賞が長年の趣味だが、恋愛ものだけは一度も流していない。
女が男との恋愛によって幸せを得がちなのが、どうにも共感出来ないという。
そんな環境だから私も恋愛ドラマは未履修で、恋愛だけの少女漫画もそこそこで卒業した。
ヒロインないしは女性キャラクターが恋愛以外を頑張る漫画には、少年少女問わず今もお世話になっている。
私は強い女や戦う女を推すようになった。
そのため私には、北川景子がお市の方として登場していた頃の「強い女」感がとてもドストライクだった。
そんなん茶々も絶対強いじゃん。見てないけど。
生物学的には、子供は父親と母親がいないと生まれない。
子供の方からしたら父とか母とか親とか思えないこともあるだろうが、とりあえず生物学的な男親と生物学的な女親がいないと、現状、生まれてこられない。
生殖された後ではまた、子供が父親の子であるか、母親の子であるか、二人の子であるか、はたまた別の誰かの子であるか、議論の余地は別途出てくると思う。
私も生まれたからには生物学的な父親がいた訳だが、通念上その人に父親というラベルを付けているだけで、「この人の子供です」と名乗ることはもうない。
居間のテレビでチャンネル権を握っている母のことは、「私の親です」と迷いなく言える。
戦国時代、「誰の子か」を問うなら、男の名前を挙げていただろう。
男系、家父長制、秀頼は秀吉の子。
でも令和に作られたドラマで、母親である茶々は「秀頼は私の子」と言ったという。
そんな話を自分の母から聞いた私の、いの一番の返しはこれだった。
「なにそれ、金とパワー持ってて夫を捨てる令和の母親じゃん」
令和じゃなくても、もう少し前から「夫の稼ぎに頼らず」が成立させられるようになってきていたとは思う。
それでもきっと、今よりももっと少数派で困難だった頃に、私の母はシングルマザーとして立ち上がっていたことを思い出す。
平成の序盤に、私と弟を育てるために離婚して専業主婦をやめた母。
父親は煙草と酒が度を越して、喘息を患った私たち姉弟と、家計と、母の心を脅かしていたという。
昔の記憶の中の母は、毎日びっしり家計簿を付けていたから、決してお金があった訳ではないのだろう。
でもパワーはあった。多分パワーでお金を捻出して、私と弟を育ててくれた。
だから、「秀頼は私の子です」と言った茶々の話が出てきたのだろう。
確かに私は間違いなく母の子で、弟もきっとそうだ。
そして弟は来年、父親になる予定だという。