対岸の彼女たち
パート社員さんたちとランチをご一緒した。正社員とパート社員の間になんとなく隔たりがあり、普段業務以外の話をすることはほぼない。
40代の彼女らは、YA-MANの美容家電の話でひたすら盛り上がっていた。
話に入っていけず薄ら笑いで会話を見守るふりして、心ここに在らず。
いいな、美容家電なんて贅沢品、私は到底買えないわ。
炊飯器や電子レンジといった家電でさえ、有名ブランドのいいやつを買えず、アイリスオーヤマで凌いでいるのに。
目の前に広がるあまりに大きな貧富の差に愕然とする。
うちのパート社員さんは、だいたいブランク有りの元専業主婦。短大や女子大を出てメガバンクや総合商社といった大手企業に一般職として入社し、20代で社内結婚して見事に寿退社している。その後は家事育児に専念し、10年ぶりの社会復帰、みたいな人も少なくない。だからそんなに仕事はできない。そうなると難しい仕事は任せられない。本人たちは、それを弁えているからいつも「社員さんの指示に従います」と礼儀正しく低姿勢でこちらを立ててくれる。非常にやりやすい。
だけど、身分の差と貧富の差が逆転しているとでもいうのか。
パート社員さん達に初歩的なパソコン操作を教えてあげている間も、その左手薬指に光る一流ブランドの指輪が私には眩しすぎる。
指輪だけでない。高級取りの旦那にかわいい(であろう)子ども、大きなおうち、死ぬまでに使えきれないくらいのお金。私が持ってないもの得られなかったものをたくさん持っている。
半日とか週3とか家事育児に支障のない範囲で、暇つぶし程度にゆるく働いて、その給料は全部自分のお小遣いなんだろうな。
働き始めてから髪型もメイクも服装も一層華やかになっていくパート社員さんを横目に、私はもう10年近く苦楽を共にしている仕事着のニットの毛玉を指でもぎ取る。
惨めな気持ちになり、つい仕事やめたくなる。なんなら人生やめたいくらいだよ。
でもま、私にはできないよな、旦那という他人に養ってもらうとか。敬ってもいない社員にへこへこしなきゃいけないパートとか。子どもの習い事だけで終わる週末とか。
想像するのさえ難しいけど、彼女達の生活のディテールを思い浮かべ観念する。
今の気ままなおひとりさまOL生活、結局正解なのかもしれないな。
文:べみん
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