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【檀一雄全集を読む】第一巻「夕べの雲」

 この小説は完全な創作だと見ていいだろう。いや、檀一雄が満州に滞在していた時期の友人との交流は織り込まれていそうではある。

 主人公の檜と友人の苅田は芸者を呼んでの蕩尽の果てに一文無しになってしまう。これからどうするか話し合っていると、何かを思い出した苅田が旅順に行こうと言い出す。訝しがりながらついてくる檜に苅田は、旅順には妻の親戚の家があるのだと告げる。その家に着いてみると目的の親戚は留守だったが、代わりにヨリ子という女性がいて酒を肴を出してくれたり旅順を案内してくれる。

 この優しくてどことなく影があるヨリ子にはモデルがいるのだろうか。何となく檀の理想の女性という気がする。檀は自分では大地から生え出たような快活な女性を好むように書いているが、盟友坂口安吾には少女趣味だと言われたりしている。ヨリ子は明らかに後者だ。

 それはともかくとして、檜と苅田の豪快で軽妙なやり取りが楽しい作品だ。


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