【檀一雄全集を読む】第一巻「花筐序」
「花筐」は元々長篇の構想だったものの、この「花筐序」のあとに発表した「夕張胡亭塾景観」が第二回芥川賞の候補となり、候補者として文藝春秋に小説を依頼されたため急いで書いた「花筐」は短篇になってしまった。
そのためこの「花筐序」は登場人物こそほぼ同じではあるものの、ここで書かれる「花筐」の構想は実際に発表された「花筐」とはかなり異なる。
この「花筐序」で書かれる「花筐」の構想は、某教授(発表された「花筐」では講義中に鵜飼や吉良、榊山に席を立たれる山内教授にあたる)がまとめた鵜飼、吉良、榊山という不良少年たちの記録をもとに、あきねの弟である圭介、筆名檀一雄が一篇の小説に仕立てようというものだ。
最初の構想の通りじっくり書かれた長篇を読んでみたい気持ちはあるが無理だっただろうなとも思う。このだいぶあとにも「家宅の人」が書けない時期に出版社の人間に言われるまま過去の原稿を寄せ集めた『小説 坂口安吾』を刊行し、その時もいずれ書き改めたいと言っていたらしいが、書かれることはなかった。
まあ一度発表した作品をあとになって書き改めるなんて考えただけでも面倒で情熱を持ちづらい作業だと思う。仕方がない。もしかしたら実際に長篇にしようとしたら途中で書けなくなったり破綻していた可能性もあるわけだし。文藝春秋という舞台と締切を用意されたことではじめて完成させることができたのだと思うことにしよう。