『アニマ』―ヒトの魂の在り方
書店でジャケ買いしたやつを読了。表紙のビジュアルと帯の煽り文句で手に取ってからそこそこ時間が経ってしまったが、何とか読み終えることができた。海外文学に長いこと触れていなかったので、日本語訳特有の文のクセに慣れなかった故、時間がかかってしまった…。
特に本作はかなり色んな言語を多用していて(この辺の翻訳が巧みですごい)、地の文のニュアンスがちょっとピンとこなかったりとか個人的な読みづらさはあったものの、物語の終息へ向けての疾走感が凄まじくて引き込まれる。終盤はもう流れていく景色を追うのに必死だったというか。
ただ、ところどころの残虐な描写が壮絶、文章力が高いグロはなかなか体力を吸われることを実感。物語の背景から「グロく表現しすぎだろ!」とクレームを入れるのはお門違いなため、読者の中ではむごい現実として消化することしか出来ないからより辛い。
教養としてレバノン辺りの歴史をちゃんと知っていれば、もっとすんなり内容が入ってきたと思う。大学時代に色んな地域の犯罪・戦争をモチーフにした作品に触れたけど、この辺りはほぼ未履修、これを期に色々勉強してみたい。どんなに雄大な"自然"においてもそこにはヒトが住み着いていて、加害者・被害者関わりなく息をして、生活をしている。情景描写が巧みなだけに、恵まれた土地に生まれた自分をちょっと呪いたくもなった。
…と、つまりはとっても筆致豊かな作品だったのだけれど、本作の一番の特徴は内容の全てが様々な動物の視点から描かれているということ。主人公を脇から見ているあらゆる生き物が、物語を綴っていくのだ。
最初は飼い猫から、その後は主人公の行く先々の動物たちが彼の人生を描写してくれるのだが、これがユニークで面白い。その語り口をとるだけでも、めちゃくちゃ語彙が少ないハトがいたり、非常に難解な言葉を使う金魚、飼い主への感情が第一優先のイヌとか、序盤はちょっと笑ってしまう面もあり。
アニマとは恐らくラテン語における”魂”の意と思われるが、この主題をどう物語から汲み取っていくかは人によって大きく差が出ると思う。大枠は妻を惨殺された主人公が自らの魂の在り方を探す物語と言えるが、彼が行き着く先にはどこであろうとあらゆる生き物が存在していることは先述の方法から強調されていることの一つであり、"ヒトとその他動物"という相対ではなく、等しく魂についての物語とも捉えられる。
…正直、この辺はもっと宗教的な解釈が出来る気がしているから、あんまり上手く感想が書けない。現地の宗教観を学んで読むことも良いと思うが、多くの宗教に共通している「神が魂を生み出した」という考えの上に成り立ってしまった「ヒトが行う戦争や虐殺といった歪んだ行為」をどう捉えるか。作中での錯乱描写は理論的な精神疾患というよりあくまで現象的に扱われており、社会的メッセージというよりは戦時社会への哲学的な主題提起とも思えた。
とりあえず、もっともっと歴史を勉強しておけばよかったなあ、という気持ち。読書や映画、演劇はこういうきっかけが出来るから良いよね。遠い異国の悲劇ではなく、同じヒト科ヒト属の生き方を描いた物語として胸に残しておきたい。