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初心者が観る狂言 #1『第23回よこはま「万作・萬斎の会」』

たいやきこと溝浦泰弥です。

本日、横浜能楽堂にて『よこはま「万作・萬斎の会」』を観て参りました。

横浜はみなとみらいの紅葉坂と呼ばれる急勾配を上がっていきますと、奥の方にお寺のような風情ある門構えが。中に入ると、昔は駒込にあったものを持ってきたという立派な舞台があります。

ザ・「NHKの『にっぽんの芸能』とかで見たことある!」的な舞台です。


言っておきますが、タイトルにもある通りたいやきは狂言については一度だけ解説付きの舞台を観た程度の全くの初心者。今回も解説はありますが、歴史や作品の所以は詳しくありません。
今回のnoteも、ただ出てきたものを観て、聴いて、感じたことを書くだけになりますので悪しからず。

ただ、狂言というのは、そんなたいやきでも楽しく気楽に観れるもんなんですよ、というお話をします。


心得1. 気楽に観よ

微妙に折れがあって申し訳ないパンフレット

大抵、万作の会主催のものは、頭に作品や狂言についての解説を入れてくれます。「狂言とはなんぞ?」「今日やる話ってどんなの?」を説明してくれるんですね。

よく歌舞伎なんかもイヤホンガイド売ってたりするじゃないですか。あれを簡潔に初手で喋ってくれます。「そんなもんでこと足りるの?」と思うかもしれませんが、むしろ十分すぎるくらいには狂言自体の内容が分かりやすいです。

狂言のお話は喜劇。大掛かりな展開はないけれど、登場人物は人間味が溢れていて、誰もが憎めないような愛おしいような気持ちになりながらつい笑ってしまう、面白おかしいお話が多いのです。落語とちょっと近い感じがしますね。

当然話し言葉は古いのですが、ちゃんと聞いてると、古文の成績に関わりなくある程度の内容は理解できると思います。大変ありがたいのは、パンフレットにはお話の中に出てくる昔の言葉・表現についての意味解説がばっちり記載されていること。演劇や歌舞伎とは異なり、狂言は客席が明るいままで上演してくれますから、パンフレットと舞台を同時に観ながらしっかり内容を理解することが出来るんです。


と、こんな感じで「難しそう…」「観たことないし…」なんてのは戯れ言レベルに出来るほど門戸が広いことがお分かりいただけましたでしょうか?


心得2. 存分に笑えよ

一つ目の演目は“子盗人(こぬすびと)”。野村萬斎さんが博打の元手のために裕福なお家へ忍び込む盗っ人を演じます。と、寝ている赤ん坊と遭遇してしまい、騒がせたらアカン的な流れになるかと思いきや、可愛すぎてあやしちゃう…という微笑ましい展開。

あ、ちなみに狂言も落語や歌舞伎のようにある程度ストーリーの全容を知った上で楽しむ形の芸能です。オチもなんとなく見えるのですが、これが分かった上でも面白いし笑えるのがすごいですね。

盗っ人が赤子にメロメロになってあんなことをさせこんなことをさせ…と可愛がる様子が非常にコミカルで、常時笑いを誘います。伝統芸能だからって黙って背筋を伸ばして観てるなんて勿体ない。存分に笑っていいのです。


心得3. キャラクターを味わって

二つ目の演目は“孫婿(まごむこ)”。万作さん演じる祖父(おおじ)が自分の家で行なわれる婿入りの儀式で出しゃばらないよう、舅が「なんとか祖父がいない間に祝儀済ますぞ」とするんですが、老人特有の無駄な勘の鋭さにより、結局祖父は会席することに…というお話。

狂言は大掛かりな展開よりも人間味のある素朴なストーリーを見ることが出来るのも魅力の一つですが、この祖父の“ほんとに居そうなキャラクター性”が親しみやすく、それを制したり、逆にそれに振り回されたりする周囲の動きも「なんか身内とか会社で見たことあるな」になる人は少なくない筈。祖父は面(おもて)を付けている(お能とかに出る能面みたいなやつ)ので表情こそ変わらないのですが、これが役者の腕でして、動作や声音が祖父の心根の全てを物語っています。

また、この“孫婿”は“子盗人”同様、とっても笑える話なのですが、笑いの感覚はあまり今と変わらないなと思う場面も多かったのが面白いところ。例えば、帰ろうとして徐々に離れていくんだけれども、何度も途中で立ち止まっては振り返ることで未練がましくなる感じを表したりだとか、同じ台詞と動作を繰り返す“天丼”的な手法だとか、言葉遣いが古いだけで「これは芸能なのかコントなのか?」と思えるほど大衆的な一面があるんですね。そのため、知識がないと面白くないということは全くありません。


最後に、演目の間に挟まった万作さんの狂言芸話について少し。

ここでは父・万蔵さんのエピソードを軸に面についてのお話をしていただきました(後の“孫婿”で面が出るのでその布石でもあったようです)。

万蔵さんは面を通してかなりの著名な方々と繋がりを持っていたようですが、ここに関しては正直たいやきの知識不足を痛感した次第です。お名前が出る度に頷いている方が多かったので、狂言や伝統芸能に昔から絡みのある方達からすれば当然の知識だったことと思いますが、初心者のたいやきがすぐに追い付けることでもありませんので、まずは演目を純粋に楽しむところから始めたいと思います。


まとめ

狂言は自由に観れば良い

冒頭に解説を頂いた石田幸雄さんの言葉です。正直な話、触れたことのなかった時期は何が何やらで手が伸びなかったのですが、いざ見てみるとこんなに肩の力を抜いていいんだという安心感すらありました。

また、チケット代も一番高いもので6,000円です。伝統芸能であるからして、門戸を広げて様々な人に楽しんでもらおうという姿勢を感じます。たいやきは普段はミュージカル畑にいることが多いので、良席はこれの倍以上の値段をとられる感覚が常でした。6,000円で人間国宝を観ていいですよと言われるだけでもう感無量になってしまいそうです。


来年もこの会は開催予定とのことですが、横浜以外でも様々な狂言の公演がありますから、是非とも観に行ってみてください。ホントに楽しいですよ。

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