朗読劇『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった』
大好きな劇団の大好きな演目が朗読劇でお披露目されると聞き、チケットを申し込まない選択肢はなかった。
私は声優さんのお芝居が好きなので、どっぷりその演技に浸かることが出来る朗読劇は大好物だ。好きな声優さんのみならず、色んなものを観たい気持ちを常日頃から抱えている。
今回は2日間に渡り、別のキャストで2公演ずつ行なわれる。
私が参加したのは2日目のこのメンバーだ。
昔からよく声を聴いている人もいれば、あまり触れてこなかった人もいる。
ただ、実際幕が上がれば、そこに差は何もない。全員が等しく役者であり、等しく役のキャラクターに変化していた。
第一の感想!
個人的に思い入れも強い演目だったため、朗読劇として新たに生まれ変わってくれたことが本当に嬉しかった。
舞台で観た時から「これは色んな役者で観たい!」と思っていたから、早速それが叶ってしまったことが嬉しい。しかも声のお芝居でだなんて。
第二の感想!!
とにかく全員素晴らしい!
ベテランの関さんはもちろんのこと、あまりにも全員がハマり役過ぎる。今日のために別の人生を歩んできたかと思うほどだ。
この全員には制作の末原拓馬氏も含まれる。
朗読劇というのは舞台上で台本を持ち、広義の棒立ちのまま演技するスタイルが一般的だ。
しかし、今回は舞台上を役者が動き回りながら芝居する。
物語の原型となった劇団おぼんろを、そして末原拓馬氏を知っている人からすれば、そういった演出が物語において舞台上で如何に大事にされているかという点にピンとくるだろう。
個人的に良かったのは、西山さんがもう登場シーンから末原氏とはまた違う、しかしニュアンスは確かに引き継がれているお芝居を全力でぶつけてくれたことだ。
彼が演じるクラゲというキャラクター次第で舞台の様相は大きく変わる。
静かでゆるやかに始まった関さんの語りが作った薄い膜を勢いよく突き破るお芝居は、一瞬でこの物語を支配していた。
狩野さんのワカメボーイの快活さに何度救われたことか。
それでいてブチ切れるシーンとのメリハリがとんでもなくエネルギッシュで、客席の誰もが彼の虜だったと思う。
佐藤さんのラッコが最後に泣きながら自由研究の発表をする場面。
今までブレーンの立ち回りをしていたラッコの感情が爆発した表情に誰もが目と耳を奪われた。
福圓さんのサンゴ。劇団おぼんろでの『かげつみのツミ』の活躍で心を奪われた役者である。
サンゴというラストシーンまでの核心を握るキャラクターは彼女のような役者にしか出来ない。
切なくて悲しくて、でも愛情に満ちている部分を全身で表現してくれる。
そして何より関さんのトノキヨだ。
哀愁漂う老人・トノキヨがいつの間にか笑顔の弾ける少年になったかと思えば、結局また鬱々とした感情に苛まれる老人に戻ったり。
そこからクライマックスに繋がるまでのトノキヨのキャラクター性が完璧だった。
大元の舞台作品から今回の舞台の原作となる小説まで刊行されたのち、朗読劇という形で上演されたリュズタン。末原氏はずっとこの作品をあらゆる形で上演したい旨を語っている。
願わくば、また近いキャストや新しいメンバーをまぜこぜに、声優さん達の朗読劇として再演して欲しいところだ。