ザ・ベンチャー④
先日、ハートラスの社内向けの研修で「組織戦略」について話す機会があり、組織の基礎である官僚制だったり、主な基本構造などを話している中で「役職」について改めて色々と思い出したので、書いてみました。
突然ですけど、
明日から「役職者」になりたい人は手を挙げてと言われたら、
あなたは手を挙げますか?
そんな事が10年前のオプト(現 株式会社デジタルホールディングス)で起きました。
あれは2009年の夏頃でした。その年の4月にオフィスが神保町へ移転したばかりで、その新しい1階の広いホールで全役員と全社員の前でプレゼンした記憶を今でも鮮明に覚えています。
社内が下剋上になった日
ある日、会社の人事制度として役職者(本部長以下)は「立候補制」になったのです。従来の上層部が指名して決めるクローズドな手法ではなく、ある程度領域(本部)は分けて、その「役職」に対してオープンに立候補者を募るのです。
誰でも立候補出来るのですが、手を挙げた社員は、なぜ立候補したのか、その組織をどうしたいのか(方針・戦略)、そして自分の強みや弱み、想いを全役員の前でプレゼンするのです。また、そのプレゼンは全社員へ公開され誰でも聞く事が出来ました。
このプレゼンを元に最終的には役員の判断で役職者が決まる事になります。
そして、この制度変更を聞いた当時の猛者たちはと言うと、
肩回してプレゼン準備に取り組む分けですが、、、
チャンス到来とギラギラした目で今の上長をひっくり返しにいく者
改めて自分が役職者に向いているのか自問自答して迷走し始める者
役職者になる事が目的で一番応募者が少なそうな領域を狙おうとする者
新卒2年目で果敢にも部長に挑戦する者
実は別の部署をやってみてかったと全く異なる部署へ応募する者
ギリギリまで誰にも立候補する事を言わずに虎視眈々と準備する者
面白いぐらい色んな反応があった事を覚えていますし、正に下剋上と言うか、私はベンチャー企業に入ったんだな~と身を持って実感したのです。今風に言うとイノベーションが猛烈に起きそうな感じ。結果、特にこれでは起きなかったけど…
ただ、今でもしっかり覚えているのは、「役職」って何だろう?って、真剣に考えるキッカケになった事は間違いなくて、それだけでも私にとっては十分価値のある貴重な経験でした。
そもそも、なんでこの制度を始めたのか?
今となって詳細は分かりませんが、覚えているのは当時星野リゾートがこの「管理職の立候補制」を実施していた事を鉢嶺さんが知り、得意の即決で導入を決めたのではないかと思っています(鉢嶺さん違ったらすいません)
ちなみに、今でも星野リゾートがこの制度を続けているのかは知りませんが、2017年時点で続いているので今でも実施されてそうですね。星野代表の強い意志と想いを感じます。
役職って役割だよね
この経験を通して、改めて感じるのは、「役職」って「(ただの)役割」と言う事。つまり、「役割」が変われば「役職」も当然変わる。もっと言えば、会社としてのその「役割」自体が不要になれば、その階層の「役職」自体もなくなる。例えは「副部長」と言う役割って不要だよね、と言うように。
こういうと簡単な話に聞こえるけど、その当事者にしたら簡単では済まない話だと言う気持ちも十分に分かります。現に私も異動も含め役職は変わってきた方なので、自分も一時期モヤモヤした事もありました。
ただ、大事なのはその役割(=役職)を通して何をしたのか?だと思っています。組織にはミッションや目標がありそれを実現できたのか、更に個人としてどう成長したのか。
これは今でこそ、制度&意識改革もありグループ内でも浸透し始めている(?)と思いますが、当時は納得するのは難しかったと思いますし、実際にこの制度によって会社を去っていった社員もそれなりにいたと記憶しています。
一方でこの制度が良かったと思うのは、星野リゾートの記事にもありますが、選ばれたリーダーの長所や短所を周囲のメンバーがよく理解してミッションに取り組める点だと私も思っています。
良くあるのが経営トップは勿論、自部署のリーダーに「完璧」を無意識の内に求めてしまう事です。
断言できるのは、皆にとって「完璧な人」はいないし、誰かにとって完璧でも、他の誰かにとっては最悪な上司の事もある。と言うかそういうものです。
だからこそ、その短所と長所を事前に理解して皆が自主的に補い合う組織を作る必要があり、その点で「立候補制」は大きな意味があったと思います。
なので、実はメンバーには結構なフォロワーシップが試されるわけです。
事業と人事制度の相性
散々、「立候補制」の話をしておいてアレですが、制度自体の良し悪しではなく、客観的に見るとやはり当時のオプトにはこの制度は合わなかったなと思っています。
理由は2つあって、
1つは、人材育成の方針の問題。そもそも人材をどう育てたかったのか骨太なものがあったのか怪しい所がありました。ここまで大きな変更なのでメリット/デメリットは十二分に理解し、その上で決断しているはずですが、その決断の指針となった育成方針が明確にあったのか、更にそれにマッチしていたのか疑問ではあります。仮にあったとしてもそれがしっかりと伝わっていなかった事は問題でしたし、勿体なかった。
2つ目はビジネスモデルの問題です。これは意外と重要だったと思っています。参考にした星野リゾートはBtoCであり、オプトはBtoBです。やはり、事業との相性は重要です。
当時はまだまだ(今もですが)人間関係がモノを言う世界であり、過去から積み上げてきた人間関係性で取引が上手くいったり、交渉がまとまるケースは多分にありました。特にBtoBの更に広告代理事業のビジネスだとそれが顕著だと思います。
それが、急に新しい未経験の部長が就任し、またゼロから関係性を構築して同じかそれ以上のパフォーマンスを出すのはそれなりに時間がかかり、厳しいなと感じたものです。
つまり、人事制度としては魅力的で続け甲斐があっても、ビジネスモデルとの相性が良くなかったと私は思っています。
これらが理由かは分かりませんが、残念ながらこの制度が長く続く事はありませんでした。
今思うとですが、これはこれで有りだったのかなと思っていて、私個人としては「役職」というものに対する考え方が変わったり、気づきも多かったのと、なによりオプトと言う会社はこういう事をやってしまう会社であり、それを良しとする文化だと言う事を非常に分かり易く体現した事が良かったと思っています。
どんな綺麗な言葉を並べるよりも、この1回の「決断」はパンチ効いてたなと(笑)
まずやってみて、駄目なら止めれば良い。それで痛みがあってもしょうがないし、その痛みは次に活かそう。この考えはやっぱりベンチャーですね。
そして、今でもそこは変わってないし、今後も変わらないと思っています。
ではまた。
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