「コンテンツの価値を最大化」視点から「出版社ビジネスモデルの変遷」を図解してみる
大学で講義した内容を、自分自身の振り返り用に記した前の記事「編集者の仕事は「コンテンツの価値を最大化」:明治大学の講義で話したこと」が、想定していたよりも多くの方に読んでもらえ、コメントもいただけました。
その反応を見ることが、自分自身でも「この先の出版社のビジネスモデル」について、「コンテンツの価値を最大化」という視点から熟考する機会につながりました。
noteという場にアウトプットしたことで得られた考察です。ありがたいことです。
その考察もまた、ここに記してみたいと思います。皆さんのビジネスや作品づくりなどに少しでもお役に立つと嬉しいです。
まずは、
かつてと昨今の「出版社のビジネスモデル」を
「コンテンツの価値を向上させる」という視点から解説していきます。
■かつて:面倒なことを考えずに、いいコンテンツを作る→自ずと価値は最大化された
ウェブが発展する前、出版社が「マスコミ」の一角を担っていた時代、
情報の流通は、「4マス」と言われる企業が牛耳っていました。
また、コンテンツの展開方法の選択肢は極めて限られていました。
出版コンテンツは、「200ページ、1,000円、初版1万部」のようなフォーマットに落とし込む以外には、ほぼ選択肢がありませんでした。
ビジネスモデルの図もとってもシンプルです。
(オレンジ色のところが利益の出るところです)
十分利益が出ているのですから、余計なことを考えていないで、
いいコンテンツを作ることに注力
それこそが正解でした。
情報流通の寡占を強みに、
派生ビジネスは外部に任せ、リスクは極少にすることができました。
「たくさんの人に、いっぱい見てもらおう!」だけを考えて
いい作品、面白いコンテンツを作っていれば、
自ずとコンテンツの価値は最大化される、
とってもいい時代だったのです。
ああ、この時代に戻って編集者をやってみたい。
…でも、そんな奇跡は起きるわけないので、現実を見ていきます。
昨今の出版社のビジネスモデルです。
■昨今:時代は変われど方針は変わらぬまま→コンテンツの価値を目減りさせている
ウェブの隆盛で、情報流通は開放されました。
そして、コンテンツの展開方法が無限に増えました。
「200ページ、1,000円、初版1万部」のようなフォーマットは、膨大にある選択肢の一つに過ぎなくなりました。
しかも、その変化は、出版社のスピード感からすると、あまりに突然に起こりました。
準備する間もないほど、いきなり!だったのです。(実際は、準備期間はたっぷりあったのですが)
そんな中、相変わらず
「たくさんの人に、いっぱい見てもらおう!」
くらいしか方針がないままに始めたのがウェブメディア展開です。
「たくさんの人に、いっぱい見てもらえる」からです。
かろうじて、広告という数少ないマネタイズ手法はあれど、
その仕組み上、アクセス乞食に陥りがちで、「信頼」という貴重な財産を切り崩しながら小銭を稼いでいるのが実情です。
本当に稼げているのならばまだいいですが、大半は、売上こそたっていても、利益は出ていません。
労働集約型で、手間とコストをかければPVと売上は、ある程度上がるので、あたかも「まだ成長途中。このまま続ければ、いつか利益が出る」かのような錯覚を抱かせます。
そして、自転車操業的な徒労が繰り返されてしまいます。
その結果…
コンテンツを無料でばらまく
↓
いっぱい見てもらえた
わーい
…で?
という状況に陥っています。
情報の寡占が崩れているのに、相変わらず「たくさんの人に、いっぱい見てもらおう!」一本槍なのですから当然です。
(なぜ「出版社のウェブメディア」には未来がないのか も合わせて読んでいただけると、より理解してもらえると思います)
そして、新しく生まれてきたメディア「SNS」は、
コンテンツの価値向上に適したツールなのに、
「たくさんの人に、いっぱい見てもらう」ための「拡散おまけツール」としてしか使われていません。
…というように、ここ10年くらいの出版社の動向は残念ながら、
「コンテンツの価値」を目減りさせてるケースが大半と言わざるえません。
このような現状を踏まえて、
では、この先、出版社はどのようなビジネスモデルを構築していくべきか、
「コンテンツの価値を最大化」という視点から、私なりの見解を記していきたいと思います。
■これから:「新たな収益の仕組み作り」+「収益率の向上」→コンテンツの価値を最大化
「書店流通」の縮小を止めることはかなり厳しく、
「ウェブ流通(ウェブを活用した情報・コンテンツの流通)」には光が見出しにくい以上、
「コンテンツの価値の最大化」のためには、
これまでオマケだった「派生収益」部分を拡大すると共に、
「収益率の向上」と「新たな収益の仕組み作り」が肝要になってきます。
「収益率の向上」のためには、
これまで外部に出していた部分において、自分たちが関与する割合を増やしていく必要があります。
その分、リスクを取っていくことになります。
(とはいえ、メーカー機能も、小売展開も、イベント運営も、テクノロジーのおかげで、リスクがかなり低減されたので、たいしたリスクでもないのです)
前の記事 編集者の仕事は「コンテンツの価値を最大化」:明治大学の講義で話したこと に記したように、紙・ウェブに留まらず、
店舗やイベント、行政、等々、全方位を見据え、
「どこで展開すれば最も果実が大きいのか」を常に考えながらコンテンツを磨き上げていくことが大事になってきます。
(2020/10/01 図を更新しました)
そこからさらに発展させて
「新たな収益の仕組み作り」のためには、
「書店流通」、「ウェブ流通(ウェブを活用した情報・コンテンツの流通)」に次ぐ
出版コンテンツにおける「第三の流通」を築いていくことがカギになってきます。
「”第三”どころか、既に出版コンテンツは、アニメ、映画、ドラマ、グッズ、食品、等々、さまざまな流通で展開されているじゃないか」
と思われる方もいるかもしれません。
けれども、それらはあくまで、コンテンツの「二次利用」として、外部企業が自身の流通に乗せているものに過ぎません。
出版社自体は「書店流通」「ウェブ流通」以外の流通は、ほぼ持てていないのが現状です。
では、どうやって、出版コンテンツにおける「第三の流通」を作っていくのか?
だいぶ長くなってしまったので、それについては、また改めて。
私自身が最近取り組んでいることにも具体例として触れつつ、
「第三の流通」構築の具体的な方向性について、記してみたいと思います。
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※こちらに記された内容は、所属する会社の見解ではありません。個人としての考察になります。
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