『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』 イキウメ
2024年8月17日(土)13時
@東京芸術劇場シアターイースト
¥7000
2009年に世田谷パブリックシアターの主催で上演されたものを、今回は劇団公演として再演。初演は観ていないので、再演はありがたい。しかも劇団公演は嬉しい限り。
タイトルの通り小泉八雲の作品数編を原作としているんだけど、それだけじゃあなく・・・。
開演前、客席についた時から何かがもう始まっている感じ。
舞台の奥には長方形の坪庭があり、その周囲は回廊になっている。黒い木の柱が数本立っていて、能の舞台のようにも見える。
坪庭の上手寄りには小さな紅梅の木、下手寄りには石ころを積んだような祠、そして上から降り続ける細い砂。美しい、静謐な時間だった。
開演。
シンバルしゃーん、しゃーん。バスドラどぉーん、どぉーん。坪庭の奥、下手側から人々が並び出てくる。お膳や座布団などを捧げ持ち、摺足で静々と。やはりお能だ。
あらすじというか芝居の内容についてどう書こうかと考えたけど、前川さんが明確にして簡潔に説明してくれていた。
巧妙なメタフィクションとゾワッとする怪異、情念の恋。いやあ面白かった。
旅館で顔を合わせた3人が、女将や中居たちを巻き込んで語るのは・・・旅館の前身だった寺で、象に乗った普賢菩薩が毎夜現れるという『常識』。
再婚はしないという亡き妻との約束を違えた武士。後妻は先妻の亡霊に殺されてしまう『破られた約束』。
茶碗の中で見知らぬ男の顔がこちらを見ているという『茶碗の中』。
実は田神は警察官、宮地は検視官で、遺体安置所から消えた河野舞子という女性の遺体について調べているという。茶碗の中の話は宮地自身の体験だったのだ。見知らぬ男は黒澤だった。
最初は伝承として聞いた話だったけど、茶碗あたりからがっつり現実が絡んでくる。
若くして病死した娘は、許嫁に「再びこの世で出会える運命。15、6年ほど待て」と言い残したという『お貞の話』、お露と新三郎で有名な『牡丹灯籠』の、八雲版とも言うべき『宿世の恋』。
消えた遺体(舞子)は、黒澤の恋人・しのぶの生まれ変わり・・・かもしれない。けれど彼女も亡くなっている。
『宿世の恋』の新三郎が、自ら札をはがしてお露の元へ行ってしまう。つまり、黒澤も・・・そして暗転。
田神・宮地が気づくと旅館ではなく破れ屋にいた。中居、女将の姿ももちろんない。そして黒澤の遺書が残されていて、彼女との永遠を誓うとある。そして祠の下にはふたりの遺体が・・・。
田神と宮地の仕事はこれで完了するが、さてどう報告したものか。そんな彼らを、離れた場所から見つめ、深くお辞儀をする黒澤の姿があった。
再び、一筋の砂が落ちてくる───
ああなんて美しい。堪能。
美術も照明も。浜田信也の着流し姿も。(そこかい)
いつも人外ぽい浜ちゃんだけど、今回こそは人ならぬもの、であった。
『宿世の恋』の結末が一般的に知られてる『牡丹灯籠』と違っていたのよね。お露の幽霊にとり憑かれ、祓おうとしたが失敗し新三郎が死んでしまう、というのがアタシの知っている話。確かお露は最初から幽霊で、新三郎をとり殺すことが目的だったはず。
今回は相思相愛だけど悲恋の物語。まずそこが違って、お露の霊が新三郎を求め、新三郎があの世と判っていて彼女をとる。
「地獄に堕ちるぞ」と言われ「それが不幸とは限らない」と返す新三郎。うん、ある意味ハピエンかもしれない・・・。
そして現実パート(本当に現実かはわからんが)の結末も、転生した?恋人と出会えて一緒になれた(?)から、これもある意味ハピエンかも。
転生を確信するきっかけが、グレイトフル・デッド(感謝する死者)のTシャツっていうのが、またね・・・。
怖くても悲しくても、安井さんがちょっとだけ笑わせてくれるので、辛くならずに観ることができる。すごいぞ安井JP。こんな演目でも「いっふぅんむ」が聞けたのも嬉しい。ひっそりと大喜びしてしまった。
女将役の松岡さん、以前イキウメに出た時も良かったけど、今回はまたすごかった。『破られた~』で先妻役をやった時の恐ろしさ。後妻ちゃんの首をもぎった時のエグさよ。こわ~~~
でもって亡霊だったのがシームレスに現代場面に移行した時は、中居の子に「女将、髪が乱れてます」と言われて「あらすみません。直してきます」って捌けるのとか、クスッと笑えていい。緊張と緩和。
初演と比べて、怖さを視覚より聴覚に寄せたというインタビューを読んだ。へええ。なるほど。たしかに普賢菩薩登場シーンとか、象の足音で表現してたなあと。でもやっぱ初演もちょっと観てみたい。あと、原作もほぼ読んだことないから、それも気になる。
公演はまだ続くので、良かったらぜひ。
詳細は→公式サイトへ
黒澤(小説家) 浜田信也
田神(警察官) 安井順平
宮地(検視官) 盛隆二
女将 松岡依都美
中居甲 生越千晴
中居乙 平井珠生
中居丙 大窪人衛
中居丁 森下創