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私の初恋は木曜日にはじまった


わたしの初恋は中学校1年生の時
相手は小学校からの同級生

幼かったあの頃は好きなほど嫌いと
言ってしまうそんなお年頃で
告白はできなかった。

それと同時に
好きと言ってしまったら終わってしまう
そんなことを幼いながらに
感じていたからかもしれない

わたしのお昼休みの日課は
ベランダで友達と話すこと

もちろんその理由は
サッカー部だった彼が毎日
そこから見られるから


彼は身長が高くてかっこよくて
誰からみてもモテる人だった


わたしは吹奏楽学部の地味な人間

今後交わることのない人だとは
自分でも分かっていた


中学校2年生

クラスは違ったけど同じ授業を
受けることがあった

それは唯一同じ教室で同じ時間を
過ごせる私にとっては特別な時間だった

毎週木曜日の4時間目
今でもハッキリ覚えてる

木曜日のために学校に行っていたと言っても
過言ではないくらいわたしのその時の
モチベーションは木曜日にかかっていた


話せる訳でもないし
ただ眺めるだけ
それでも十分だった


ある時風の噂で
その人と誰かが付き合っているという
噂が流れた時があった

その時の胸騒ぎとやるせない気持ちと
やり場のない悔しさは今でも
人生の悔しい時トップ3に入るだろう



相手は生徒会で頭脳も優秀
部活も運動部で誰からも好かれる
一言で言うと『出来る子』だった

勝ち目もないし、むしろお似合いだ


これでわたしの初恋は
虚しく終わった




この時からわたしのモチベーションを
保ってくれていた木曜日がガラッと
ただの木曜日になってしまった

わたしはなんで学校に行くのだろう
とさえ思ってしまったくらいだ

ここでわたしの中で彼の存在が
どれほど大きかったのか気づいた



とある木曜日。
普通の木曜日。

むしろちょっと切ない木曜日。


彼はななめ前の席に座っている

隣の男子と話している話が
ふと耳に入ってきた

『お前彼女とどうなん?』

『そもそもいねーよ。』


。。。

え?
どういうこと?
付き合ってたんじゃないの?


わたしは少し期待してしまった
わたしは少しドキドキしていた
わたしはとても嬉しかった



この時わたしの迷いが吹っ切れた


『告白しよう』


引っ込み思案で何の取り柄もない
唯一頑張ってることは部活くらい
こんな私に勝ち目はあるのだろうか
いやここまで来たらもう
当たって砕けろだろう
来年同じ授業を受けられるとは限らない
そう今しかない。



とある木曜日。
いつもとはまるで違う木曜日。
緊張で手が震えた木曜日。

授業が始まる前にそっと彼の座る
机の引き出しに
ルーズリーフの紙を1枚忍ばせた


『帰る前に机の中を見てほしい』


わたしの精一杯の勇気だった
直接気持ちを言うことも出来ない
卑怯だったかもしれないけど
あの時の精一杯だった


『え、、?分かった。』


その通りだろう
彼からの返事だ。


わたしはそのルーズリーフに
思いの丈をしたためた

ずっと前から好きだったこと
付き合って欲しいこと

他にも色々書いたけどこれは
わたしと彼だけの秘密だ

そして最後に当時使っていた
パソコンのメールアドレスを書いた

私の時代は携帯電話は高校生から
だったので、メールをしたい人達は
パソコンでやっている人が多かった

この日の授業は何も記憶にないことは
言うまでもない


その日の夜

心臓が飛び出てしまうんじゃないか
という気持ちでメールボックスを
震える手で開いた





そこには何も届いていなかった。


あれ?

何度も何度もログインしたり
ログアウトしてみたりした


それでも何も届かなかった。



私の恋は終わったな。
告白したから十分だ。
よく頑張ったよわたし。

自分で自分を納得させようと
必死になった


次の日
クマというクマもいい所だという
くらいの腫れぼったい目で登校した

でも友人と話したり、授業を
受けたりしていたら思ったよりも
普通の自分でいられた

その日の放課後
偶然、廊下で彼とすれ違った。


ぎこちない。
避けられた。

ああ、やっぱり終わったんだな。
わたしは自分の中でこの恋を何度も
終わらせた。
もう分かったよと言いたくなった。



数日後

友人とSkypeをしていると
見慣れないアドレスからメールが届いた。


これは、彼だ。



すぐ分かった。
終わらせたはずなのに、
多分心のどこかで待っていたのだと思う。

Skypeを上の空のまま続けて
終わらせたあと複雑すぎる気持ちで
そのメールをひらいてみた
やはり彼からのメールだった


そこに書いてあったことは
いたって端的にまとめられていた


『ありがとう。でも今は無理。』


ありがとう?

でも今は無理?

優しい彼なりの断り方だったのだと思う。

わたしの青春は終わった。

わたしの恋は終わった。




1年後。
中学校3年生残り数日で卒業式

あのメールを貰って以来
恥ずかしさやちょっとの悔しさで
彼を避けてしまっていた自分がいた
それなりに他の恋もした。
そうすれば忘れられると思ったから。
それなりに部活も頑張った。
吹奏楽部では全国大会まで進んだ。
勉強も頑張った。
それなりの進学校に前期での入学が決まった。
コンタクトをはめた。
見た目もそれなりに中の中くらいにはなれた。


そんな日の夜

見覚えのあるアドレスから
メールが届いた


題名『Re.』

本文『卒業式のあと時間がほしい』


しばらく眺めてしまった

それを見た私

期待と期待と期待しかなかった

あんなに何回も諦めてきたはずなのに
全然諦めきれてなかったんだわたし
心のどこかで『今は無理。』の
今が過ぎるのを待っていたのかもしれない



卒業式の朝
いつもより2時間くらい早く
起きたのを覚えている

中学生にできる精一杯の
身支度とお洒落をした

今日の私にとって卒業式なんて
前座に過ぎない

本番はこれからなんだ。


放課後指定された時間に
指定された場所に行った


そこは昔小学校の頃に
彼と1度だけ会ったことのある公園だった


だいぶ早く着いてしまった。


『キキーーーッッッ』

すごい勢いで自転車に乗った彼がやってきた


お互い照れくさくて
どちらが話すことも無く
ベンチに座り時間が過ぎていった

今思えば中学校で実際に話したことなんて
数えられる程度なのだ


色々思い返しているうちに
なんだか気恥ずかしくなって
何か話さないとと思った時だった


『えーーーっと

ずっと好きでした。

付き合ってください。


志望校に受かってから

俺の気持ち伝えたかったんだ。』


爽やかな春の風とともに
顔を真っ赤にした彼が言った言葉が
わたしの耳に届いた


この時の気持ちはどんな言葉でも
表せない何度も書こうとしたけれど
言葉にはならなかった


返事はもちろん決まっている


3年越しのわたしの恋が実ったこの日
桜が綺麗に咲いていた。
桜の木の下で第二ボタンを貰った。

この日は木曜日だった。



あれからもう15年

残念ながら彼は隣にいない

感動する話なら
ここで今の夫がその時の、、、と
なるはずである

あの時は私も彼も若かった

その後高校生の3年間は
彼と過ごすことが出来た
通う学校が違っても
わたしは彼の彼女であった
紛れもなくかけがえのない3年間
一生忘れることの無い3年間だった

別れも必然だった。
気持ちのすれ違いでもなんでもない
物理的な距離が私たちを
引き離してしまったのだ
この人とはきっとまたどこかで
会う気がしたから別れも
そんなに悲しくなかった。
『今は無理。』の今がまた過ぎれば
会える日が来ると思っていた。


別れることを決めた日。
桜が散り始めた木曜日だった。



わたしの初恋は自分で言うのも
なんだが、漫画のように
淡い恋で儚く夢のようだった

今でも忘れられない思い出だ


そして桜が咲くこの時期に
毎年このエピソードを思い出しては
心の中を少し切なく染めている


桜が咲く頃
またふらっと彼が現れるんじゃないか
それもまた木曜日に。

私の青春は彼一色に染め上がった
思い出だ。そんな思い出を作ってくれた
彼にはとても感謝している。


今日もそんな気持ちで空を見上げている




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