【シロクマ文芸部】から揚げにレモン
「レモンから揚げに掛ける?」
タツヤが私に聞いてくる。今運ばれたばかりの熱々のから揚げからはおいしそうな香りがする。私はハイボールを飲みながら
「うん。レモン掛けてもらえる?お願いね」
と答える。から揚げとハイボールなんてつくづくCMみたいだなぁとおかしくなる。見た目はまったく違うけれど、気分だけは井川遥になり切ってみるとしようか。
タツヤがから揚げに勝手にレモンを掛ける人でなくて良かったと思う。私はレモンを掛けたから揚げが好きだけど、これには好き好きがあるから勝手に掛けるべきではないと思っているからだ。
居酒屋のテーブルに私達は向かい合わせに座っている。テーブルの上にはから揚げの他にも、サラダや冷奴、焼き鳥などが所狭しと載っている。
「から揚げ、おいしいね。私、から揚げって大好き」
「俺も好きだよ。俺達、気が合うね。から揚げだけじゃなくて、マミの事も好きだけど」
「何言ってんの?もう酔っちゃった訳?」
タツヤは急に真面目な顔になって
「気付かなかった?俺、ずっとマミの事好きなのに」
と私の目を見つめながら言う。
本当は、気付いていた。でも、確信が持てずに気付かないふりをしていた。気付いて、この関係が壊れるのが嫌だったから。
私は目を逸らす事ができずに、ただ手にしているハイボールの入ったグラスを飲み干す事しかできなかった。だけど、いつまでもこのままでいる事はできなさそうだ。
「気付いてたよ」
私はかすれる声で言った。タツヤは何も言わずにビールを飲みながら私の口が開くのを待っている。時間にすればほんの数分の事だろうが、私の中では長い長い時間に感じる沈黙が続く。胸に秘めている言葉はあるのに、思うように口にできない。そんな私にタツヤはにっこりと笑みを浮かべて頷いて見せた。
「ほんとは、私も、タツヤが…好き」
「ほんとに?やった!」
タツヤはそういうとテーブルの上のベルを鳴らし、店員さんにハイボールを2杯注文した。
「俺、ホッとしたらお腹空いちゃったよ。さっきまで緊張して何も食べられなかったんだよ」
「そう?あれこれ食べてたみたいだったけどー?」
「あれでも控えめだったんだよ」
そこへ店員さんがハイボールを持ってきてくれた。
「では、改めて。これからの二人に乾杯!!」
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今週のお題は「レモンから」です。
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