【シロクマ文芸部】たまには電話で
「北風と太陽って知ってる?」
友人のマナが私に聞いた。いつもはLINEでチャットをするけれど、今日は一人で過ごす週末なのもあって久しぶりに電話をしている。
「それってイソップ物語の?」
「ううん、違うよぉ。ほら、久保田利伸の歌にあったじゃん」
「あー、分かった!知ってる、知ってる。確かさ、アルバムの曲だったよね」
「そうそう。♪北風と太陽と勝負など捨ててーってやつね」
「それがどうかしたの?」
「別にどうしたって訳じゃないんだけど、なんか思い出しちゃったんだよね。それでサユなら知ってるかなって思って」
「そうなのね。私、初期の久保田利伸好きだったんだ。だから知ってるよ」
北風と太陽か。これって結局どういう歌なんだろう。待ちぼうけを喰らっている女の子の事が好きな男の子がアプローチする歌なのか。まあ、そんな事はどうでもいいのだが。
「ねえ、マナ。Missingって知ってる?」
「もちろんだよー!知ってるに決まってるよ。私、これ大好き」
「だよね。でさー、これを歌ってもらったら惚れるよね」
「そう?え、何?サユはMissingで惚れた事あるの?」
「うん。それがあるんだよー。聞きたい?」
「話したいんでしょ?話せばぁ?」
Missingの思い出。普段は思い出す事なんてないけど、マナとおしゃべりして気持ちが緩んだのだろう。ほろ酔いの私はなぜか話したくてたまらなくなったのだ。
「あのね、昔の話よ。20歳そこそこの頃にさ、微妙な関係の人がいた訳。でね、その人の行きつけのスナックに行ってさ。そこのママさん達に『この子、俺が口説いてる子なんだ』なんて紹介したんだよ」
「ふーん。それで?」
「で、飲んでたら、カラオケ歌ってくれたの。それがMissingでさぁ。その人、めっちゃいい声なんだよね。そんな人が私の方を見ながらMissing歌うんだよ!もう、私それだけで惚れたね」
「サユもちょろい女だったんだね」
マナはそう言うとケラケラと笑った。
私はマナの笑い声で何だか過去の話もどうでもよくなった。この恋は私の中で消化しきれない部分もあったのだけど、マナが言う通りに私はちょろい女だと思われていたんだろうと思った。
そうか、私はイケボのカラオケに引っ掛かる様なちょろい女なんだ。
黙り込んだ私を心配したマナは恐る恐る口を開く。
「ねえ、サユ。大丈夫?」
「ごめんね。大丈夫だよ。吐き出してスッキリした」
「ならいいけど。ね、今度カラオケ行かない?私がサユにMissing歌ってあげる」
「カラオケに行くのはいいんだけどさぁ。私、マナに惚れたらどーすんのよ」
「その時はその時よー」
私はその言葉に笑いが止まらず、ヒィヒィ言いながらマナに
「でもさ、私、イケメンが好きなのよ。すまんやで」
と言った。
「それだけ笑えたら大丈夫ね。ああ、カラオケは絶対行こうね。でさぁ……」
電話しながら昼間から一杯飲んで至福のリラックスタイムだ。でも、夕方には出掛けていたダンナが帰ってくる。夕飯の支度も面倒になってきた。週末だからダンナが帰ってきたら外食にしよう。子供達も友達と遊びに行っているから構わないだろう。
そんな事を考えながら、女二人の長電話はまだまだ続く。
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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「北風と」です。
文中に出てくる『北風と太陽』『Missing』は久保田利伸さんの初期の曲です。
『北風と太陽』が入ったアルバムです。
久々に聴きましたが、やっぱり久保田利伸さんの歌はいいな。
今回は、家族は出かけてしまって土曜日を1人で過ごしているサユが友達のマナと昼間から一杯飲みながら長電話をしているお話です。
微妙な関係の人にスナックでMissingを歌ってもらったくだりは実際にあった話だったりします笑
私、ちょろい女なのかしらw w
今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪