休み下手な大人が、クラフトジンを五感で味わえる蒸溜所見学に行ってみた 〜東京八王子蒸溜所〜
フリーランスという働き方になって以降、わたしは丸一日の休みを取ったことが記憶の限りない。
原因は忙しさそのものよりも、休むとその日の稼ぎがゼロになってしまうという事実が恐ろしく、止まることができなくなってしまっている。
そうして、まとまった時間休むことがすっかり下手になったわたしだが、ひそかにずっと行きたかった場所がある。
それは「トーキョーハチオウジン」というクラフトジンを製造している、東京八王子蒸溜所の蒸溜所見学会だ。
見学会はどうやら大人気のようで、いつ見ても予約が埋まっていたのだが、予約サイトをときどき眺めること数ヶ月、ついに予約を取ることができた。
午前中に仕事を終え、電車に揺られること約1時間半。いざ念願の、東京発クラフトジンの世界へ。
八王子の住宅街、こんなところに蒸溜所!?
アクセスは、京王線「狭間駅」が最寄駅。
駅から8分ほど歩いた住宅街の中に、カッコいい建物が突然現れる。
東京発のクラフトジンは、コンパクトな蒸溜所で生まれていた
見学会は、11:00〜/13:30〜/15:30〜の1日3枠で、土日に不定期開催されている。定員は、1枠につき8名。お子様連れの方は予約人数に含まずに予約を、と予約サイトに記載があるため、お子様連れもOKな様子。
なお、蒸溜所内ではスリッパに履き替える。靴を脱ぐと思っていなかったわたしはうっかり「ちいかわのモモンガ」の靴下で行ってしまったので、太字でお知らせしておく。
蒸溜所見学会の流れ
蒸留所見学会は、ジンを入れる瓶が多数積まれている資材置き場からスタートした。ここでは瓶やラベルについての秘密を教えてもらえる。
4大スピリッツのひとつであるジンは、もともと薬用酒として誕生したお酒だったらしい。まるで薬品が入っていそうなぽってりとした瓶は、フランスから輸入しているものだそう。
また、フタの部分はジンの本場イギリスの「英国紳士のハット」のようにデザインされている。
お次は、ジンにブレンドするボタニカル素材が保管されている冷蔵庫へ。
「トーキョーハチオウジン クラシック」には12種類のボタニカルが使用されており、その中でのメインは「ジュニパーベリー」という小さな実。玄米を入れるような大きな袋に、たっぷりと保管されていた。
なんでも「ジン」を名乗るにはいくつか定義があり、ジュニパーベリーの香りをメインとしていないものはジンとは言えないそう。
ここでは実際に、2種類のジュニパーベリーを味見させてもらえる。
はじめて見る、ブラックペッパーみたいなルックスの黒い実。甘いのか苦いのかもわからないそれを恐る恐る口に運ぶ大人たちを、なんだかかわいらしいなぁと思いながらわたしは眺めていた。
何歳になったって、はじめてはドキドキするものだ。
いざ実をぎゅっと噛み締めると「ジン特有のあの味」が鼻を抜ける。ジンの風味の正体はこれだったのか…!!と思わず感動した。2種類それぞれで味わいが違うのも、またおもしろい。
舌に残るベリーの渋みを感じながら、いよいよメインの蒸溜所内へ。ドイツKothe社の大きな蒸留機は、ピカピカの銅の部分がなんともカッコいい。ここでは蒸留機の機能や製造工程について、丁寧に解説してもらえる。
蒸留機はパソコンで遠隔操作するらしく、制御している大きな機械部分まで見せてもらえる。きっと、配線フェチにはたまらない代物だと思った。
東京八王子蒸溜所がオープンしたのは、2021年のコロナ禍。ドイツから技師を呼ぶ予定だったが叶わなくなり、自分たちでドイツ語の説明書を翻訳しながら機材を設定するのに、大変苦労したそうだ。
そして見学会もいよいよ終盤。瓶詰めやラベル貼りの作業を行う部屋へ移動し、仕上げから出荷の工程について学ぶ。1回の蒸留で、400本ほどのジンを製造できるらしい。
ここまでで蒸溜所内をぐるっと一周したことになり、見学会は終了。想像していたよりもコンパクトな蒸溜所で作られているジンには、たくさんのこだわりが詰めこまれていることがわかった。
テクノロジーと手仕事、どちらが欠けてもこのジンは生まれない。なんだか、今後の仕事の在り方についてのヒントをもらえたような気もした。
見学会のあとはテイスティングへ
蒸留所見学会で製造について学んだあとは、2階のテイスティングラボへ移動して実際にジンを味見させてもらえる。
そう、この見学会は参加費無料でありながら、実際にジンを味わうことができるのだ。
なんだこのイケてるBar空間は!?
ガラス窓から1階にある蒸溜所を見渡せる、2階のテイスティングラボ。ここは普段から営業しているBarというわけではなく、蒸溜所見学会のとき限定でオープンしている特別な空間らしい。BGMも照明も、もう何から何までオシャレ。
さっきまですぐそこで、イトーヨーカドーとファッションセンターしまむらを見ていたとは思えない、非日常空間である。
テイスティングでは、蒸溜所で製造している
トーキョーハチオウジン クラシック
トーキョーハチオウジン エルダーフラワー
トーキョースパイスジン
の3種類のジンを、まずはそれぞれストレートで飲み比べさせてもらえる。
「トーキョーハチオウジン クラシック」には12種類のボタニカルが使用されているが、「トーキョーハチオウジン エルダーフラワー」はエルダーフラワーの味わいを際立たせるため、ビターオレンジピールとジャーマンカモミールの2種類を除いた10種類としているそうだ。
ジンといえば、普段はもっぱらジントニックで楽しむわたし。それゆえジンをストレートで味わったのは初体験。それぞれボタニカルの配合やアルコール度数が異なり、非常におもしろい飲み比べとなった。
続いては、おすすめのジンの飲み方の紹介。ジンのお湯割りと、ジンソニック(トニックウォーター+少量のソーダ)がおすすめだそうだ。また、ライムやレモンをぎゅっと絞って入れるのはトゥーマッチで、スライスを添えるくらいがちょうどいいらしい。
その後、3種類から好きなジン、割りもの(トニックとソーダ)、レモンかライムを選び、自分の席でカクテルを1杯作らせてもらえる。
メジャーカップでジンを計量したり、バースプーンを使ってステアしたりと、バーテンダーの所作を体験できるのが楽しい。作り方を教えてもらえるので、おうちで楽しむ際もバッチリだ。
わたしは「トーキョーハチオウジン エルダーフラワー」のジンソニックに、ライムを添えた。
ジン単体で飲んだときはエルダーフラワーが飲みやすいと思ったが、割るときはよりしっかりとした味わいのクラシックで作るほうが好みかもしれない。
このテイスティングの時間では、3種類のジンを購入することもできる。お会計は、クレジットカードの利用も可能。化粧箱としっかりとした手提げ袋もついてくるので、おみやげやプレゼントにもピッタリ。
わたしは、トーキョーハチオウジン クラッシックを購入した。そりゃ、これだけおいしいんだもの。帰ってゆっくり飲みたいじゃないの。それに「クラフトジンが飾ってある部屋」って、なんかイケてるし。
最後はそんなミーハーなことを考えながら、ライトアップされた蒸溜所を後にした。冬の夕方5時、キンキンに冷えた外はもう真っ暗だった。
疲れた大人の日常に、ほんの少しの「はじめて」を
今回、ここに来なければ「ジンの味」の実を食べることなど、おそらく一生なかった。「ジンといえばジントニック」で凝り固まった頭は、ジンをお湯で割って飲もうなんて、思いもつかない。
日常から1時間ちょっとエリアをはみ出すだけで、こんなにもいろんな「はじめて」を知ることができたのはとても楽しい体験だった。
多分わたしは当面の間、一般的な休日を自分に与えることはできないのだろう。だからこそ、さまざまな負荷の遊びのバリエーションをもち、その時の自分のコンディションに合わせた遊びを選ぶことが、きっと大切なのだ。
家で一日中じっとすることや、逆にたっぷりと出かけることだけが「休む」の選択肢ではない。
わたしたち大人は、日常を生きるだけで精一杯であることが多い。遊びに行きたい気持ちはあるけれど、休日だからとはしゃぎすぎて疲れることはしたくない。
あっという間の休みが終われば、また仕事を頑張らないといけないのだから、働く体力は温存しておく必要がある。
…だけど。
ちょっとだけ、いつもと違う体験がしてみたい。できれば、人混みを避けた静かな場所で。
東京八王子蒸溜所の見学会は、そんなテンションの「休む」に、きっとピッタリなプランだと思う。クラフトジンが奏でる深い味わいが、いつも頑張っている心身を優しく包み込んでくれるから。
ジンはインターネットでも購入できます。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?