サワードウブレッドと引きこもり
ほんの数か月前まで、
サワードウブレッド作りにハマっていた。
サワードウブレッドは、市販のイーストを使わず、小麦粉と水を発酵させて自然に出来る「天然酵母」を元種にして作るパンだ。
材料は、小麦粉と水と塩、そして空気中のバクテリアだけ。
シンプルだが、とにかく時間がかかる。
時間をかけることで、空気中のバクテリアは乳酸菌に変わる。
最近、グルテンフリーの健康法をよく耳にするが、これは、パンに含まれるぶどう糖が、血糖値を上げるのを避ける事が目的であろう。
またフィチン酸もパンに多く含まれ、これはミネラルと結合して、腸からミネラルを吸収するのを妨げる。
IBS(過敏性腸症候群)の人にとって、普通のパンは、腸内で発酵するので、その際に下痢やお腹の張りなどの消化器系の問題を引き起こす、厄介な食べ物だ。
サワードウブレッドは天然酵母を作る際の、長時間の発酵過程で、ぶどう糖もフィチン酸もほとんど破壊されてしまう。
その為、普通のパンより、ずっと消化吸収が良く、乳酸菌などの発酵成分も豊富に含まれる。
このように、サワードウブレッドは、栄養価も高く、消化吸収も良いが、最高の楽しみは、その独特の味だ。
発酵が醸し出す独特の酸味のあるサワードウブレッドは、室温や季節によって味は変わり、一度食べたら、病みつきになる。
そんな素晴しいサワードウブレッドを、最近作っていない。
天然酵母を作るのは、時間はかかるが、する事は、
「一日に一回、粉と水を足して混ぜる」
という、単純な作業だ。
1週間程で出来た元種に、小麦粉と水と塩を加え、
丸一日かけて発酵させて、高温で焼く。
普通のパンは、捏ねる事で発酵を促すが、サワードウブレッドは捏ねずにただ、待つ。することは、数時間おきに、生地を折る作業くらいだ。
難しい事はしないが、時間に余裕がないと作るのは難しい。
つまり、ヒマな人でないとなかなか作れない。
サワードウブレッド作りは、引きこもりだった私にとって、最高の暇つぶしだったのかもしれない。
考えてみると、引きこもり時代、
時々ベッドから起き上がり、
野菜の種を植えてみたり、
コンポストや納豆を作ってみたりしていた。
どれも、数分作業して、
あとは気長に待つ事が大切だ。
引きこもりは、待つことが得意だ。
時間はたっぷりとあるから。
スピード時代を生きる殆どの人は、待つという事は、時間の無駄でしか無いだろう。
しかし、時間をかけて、出来るサワードウブレッドが、最高に美味しいように、待つ事によってしか生まれない大切な物もある。
引きこもりは卒業するけれど、
「大切な物」は失いたく無い。
ピアノ練習や、朝活の合間に
サワードウブレッドを作る時間も入れてみたくなった。
生活や人生が好転していると感じる「今の私」が作るサワードウブレッドは、どんな味がするのだろうか?
この日が来るのを、首を長くして待っていた
冷凍庫の天然酵母が活躍する時が来た。
待っていてくれて、ありがとう!
次のサワードウブレッドは
希望の味が、
するのかもしれない。