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【読書記録】妖精配給会社
今回読んだ本はこちら。
『妖精配給会社』星新一著。
星新一さんと言えば、近未来を舞台にしたSF作品が多く、“ショートショートの神様”とも呼ばれます。大体の作品が数ページから十数ページで、その読みやすさから小中学生の頃よく読んでいました。
そんな星さんの数ある作品の中で一番印象に残っているのが、『妖精配給会社』に収録されている「ひとつの装置」というお話。
久しぶりに読みたくなって、再読しました。
ある高名な博士が、多額の国家予算と私財のすべてをつぎ込んで完成させたひとつの装置。
見た目は金属でできた円筒形のポスト。中央にあるボタンを押すと、胴体についた一本の腕が動きボタンを元に戻す。ただそれだけ。
博士曰く何もしないけれど、人類にもっとも必要であり、人間的な装置だという。
何もしない装置を作るために巨額の税金をつぎ込んだのかと非難された博士はこう言います。
核ミサイルにつける追撃不能の装置、人体を硬直させる毒ガス、殺人光線、防ぎようのない細菌爆弾と言ったような物を作ったほうが、みなさんのお気に召しましたか
結局、私財のすべてを費やしてしまった博士に、費用を弁償させることは不可能、取り壊すために更なる費用をかけることも出来ず、装置はそのまま放置されます。
それでも、ボタンがあれば押したくなるのが人間の習性。通りがかった人がついボタンを押す、腕が動いて元に戻す。それが繰り返される日々。
やがて装置の動きが止まる日がやって来ます。
それは、ボタンを押す人がいなくなってしまったから。
よその国の、恐るべき装置。その押すべからざるボタンのほうが、押されてしまった。ミサイルが飛び交い、たちまちのうちに戦いが世界を支配した。すべての人、いや、すべての生物が消え去った。
そして、最後にボタンが押された時から千年後。装置は初めて本来の機能を発揮します。
装置に内蔵された録音装置が起動し、人類に対する弔いの言葉と葬送の曲が流れます。
つまりこの装置は、核兵器を伴う戦争によって人類が滅亡する可能性を危惧した博士が、その葬送のためだけに作ったものだったのです。
この作品を初めて読んだのは、多分中学生の頃。
それまで星さんの作品はクスッと笑えるブラックユーモアに溢れた作品が多いイメージだったので、このラストには子どもながらに衝撃を受けました。
ちなみに、この本が刊行されたのは昭和39(1964)年。米ソ冷戦の真っ只中です。
最近毎日報じられているイスラエルとヒズボラの争いのニュースを見て、何となくこの作品を思い出したのかも知れません。
今も世界のあちこちで争いやその火種が燻っていますが、“押すべからざるボタン”が押されないことを願うばかりです。