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つぶやき 手放す(4 お雑煮)

 「つぶやき 手放す」では、大事にしてきたもの、長年手元に置いてきたものとのお別れについて書いている。世間的にはかなり早めに取り組んでいる終活の、記録のようなものだ。これまで「あるお別れ」で小さな部屋、「2」で卓袱台、「3」でほとんど読まないままだった雑誌についてそれぞれ述べた。

 今回はモノではなく行動だ。簡単に言うとお正月料理を、やめたわけではないが「簡素化」することにしたのだ。中でもお雑煮を。

 郷里のお正月料理については、ミヨ子さん(母)の半生を綴った「文字を持たなかった昭和」の「二百五十五(正月料理)」で述べたことがある。そこで触れたような鹿児島風のお雑煮を、自分なりのこだわりとして毎年可能な限り作ってきた。

 すまし仕立てで、餅は角。具としては、ヤツガシラの代わりに茹でたサトイモ、本来は大豆モヤシだが手に入りにくいので小大豆モヤシ。出汁にも使う焼きエビも首都圏では手に入りにくいが、北陸地方の物産店などに行けば売っていることもある。なければエビのうま煮……。

 と、工夫しながら準備し下ごしらえして作り続けてきたが、年齢相応に「疲れてきた」。下ごしらえのために大晦日の朝から立ちっぱなしというのに、体もついていけなくなってきた。それに12月に入る頃から食材購入の機会を図り、調達して仕込んで…、というプロセス、何より「やらなければ」と長期にわたり考え続けることが重荷になってきたのだと思う。

 手作りまで「手放す」気にはなれないが、例えば関東風のあっさりしたお雑煮でもいいのでは、と考えた。それで今年は特別な食材の調達はやらないことにして、手に入りやすい食材で関東風に「寄せた」お雑煮を作ってみた。汁は基本的に変えていないが、お餅以外の具材は、小松菜と鶏肉、かまぼこに決めた。

 しかし。実際に作る段階になってみるとこの具材では心もとない。毎年具だくさんのお雑煮だったので、なんとも素っ気なく感じる。結局、食べ慣れた――というより日常的に食べている――小大豆モヤシを加えた。そのまま煮込むと汁が濁るであろう鶏肉は、スーパーで「お雑煮用」として売っているモモ肉のぶつ切りではなく、ささ身を一口大に切ってから片栗粉をまぶしまとめて下茹でしておいたものを、出汁を温めるときに加えることにした。

 そうして出来上がったのが写真のお雑煮だ。感想を言うと「やっぱりちょっと物足りない」。でも、もうサトイモを下茹でする「時代」には戻れないだろう。ミヨ子さん譲りのお雑煮を手放すのは少し以上に寂しくはあるのだが、ミヨ子さんも許してくれるだろう。(「5 おせち料理」へ続く)

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