最近のミヨ子さん(筋肉は裏切らない)
昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。たまに、ミヨ子さんの近況をメモ代わりに書いている。
先だっての帰省では脚力の低下が顕著でずいぶん気を揉んだが、その後の様子をミヨ子さんと同居する義姉に最近聞いたところ、デイサービスの施設でずっと歩行器を使ってトレーニングしているそうで、脚どりはむしろ前よりもしっかりしてきた、自宅では杖もいらないくらい、とのこと。
以前は、室内で転ばないよう立ち上がるときは毎回「杖を持って」と促していたものが、
「もういちいち『杖』って言わなくても、好きにさせたらいいかもね、ってお父さん(夫、つまりわたしの兄)とも話してるの」
というレベルまで、回復というより向上したらしい。
杖なしにまで回復って、もう93歳、じっさいは94歳で来年3月には95歳になる人ですよ?
とわたしはうれしい驚きに満たされた。筋肉は年齢に関係なく鍛えられるとは言われるが、90歳過ぎても適切なトレーニングを受ければ鍛えられるものらしい。まさに「筋肉は裏切らない」。人間(生き物)の体を、神様はどう設計したのだろう。
もっとも、すべてがうまく行っているわけでもない。認知機能のほうは、残念ながら衰えの途上にある。
「ガラス瓶に入れておいたコーヒー豆がこぼれてて、『?』と思ったんだけど、お義母さんが豆菓子だと思って食べたみたい。まずかっただろうけどね」
と義姉は苦笑。トイレ(紙おむつ類)の始末でも「?」な場所に捨てて(しまいこんで?)あったりと、
「まあ、いろいろあるよ」
この日、ミヨ子さんとはビデオ通話をした。短い、単純なやりとりなら問題ない(ように感じる)。声もはっきりしていて元気だ。でも、相変わらず直近の記憶をたどることは難しい。いきなり別の話題に飛んだりもする。いちばんの関心は「天気」だ。室内から窓の外を見ては、細かく観察している。農家として何十年も天気を気にして生きてきたことがしみついているのだろう、と少し切なくなる。
いいよ、お母さん。自分の気持ちのままに生きてください。そんな期間は、長い人生の中でほとんどなかったでしょうから。
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