最近のミヨ子さん ビデオ通話の「また語いが」
昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴ってきた(最近はミヨ子さんにとっての舅・吉太郎の来し方に移ったあと、先月の帰省のエピソードをしばらく続けた)。
たまに、ミヨ子さんの近況をメモ代わりに書いてもいる。前項「施設入所予約」もそうだったが、本項はその続きだ。
ミヨ子さんと同居する兄から突然施設入所の予約を持ちかけられたことは前項で述べたとおり。その後、申込先の施設をインターネットで検索し、場所や施設の概要、評判などを確認し、様子が多少はわかって少し落ち着いた。しかしお嫁さん(義姉)から「空きが出れば即入所」と言われてもいるため、ビデオ通話で話せるうちに話しておこうと、次の日にお嫁さんのスマホ経由で、ミヨ子さんとビデオ通話をさせてもらった。
朝起きたミヨ子さんはまたベッドでうとうとしてしまったらしく、画面ではベッドに横たわったままのミヨ子さんに、お嫁さんが「二三四ちゃんから電話だよ~」と呼び掛けている。「そこで起き上がったままでいいからね」と伝え、通話が始まった。
ミヨ子さんは起き抜けのせいか最初ちょっとぼんやりしていたが、声ははっきりしており、話すうちに会話も「乗って」きた。とは言っても何かまとまった話題があるわけではない。お互いの近況伺いと、世間話に毛が生えた程度の話が30分ほど続いた。
そもそも施設入所予約の発端は、ミヨ子さんの脚力低下だ。そのことを本人はどう認識しているのかはやはり気になる。そこで
「最近体のほうはどう? 変わりない?」
と振ってみた。ミヨ子さんは声を落としてスマホに顔を近づけ――だから、画面に映る顔が少し大きくなった――
「長いこと生理が来ないのよ。体調のせいかしらね」
わたしは絶句するしかない。かろうじて
「あまり気にしないほうがいいんじゃないの?」と返すと
「そうね、なんとなく気にかけるぐらいでいいわよね」と返ってきた。
話題は生理からすぐに離れ、わたしは会話を続けながらも「あれは何だったのだろう?」と狐につままれた気分になったのだが、あの瞬間は、婦人科系で悩みがあった頃に戻っていたのかもしれない。
食事や料理の話題にもなり、わたしが漬けているぬか漬けの話をした。
「どんなものを漬けるの? やっぱり塩で漬け込むの?」と訊かれたので
「ぬかで漬けるんだよ。キュウリやカブやニンジン、なんでも漬けるよ」と返すと、たくあんや高菜漬けをたくさん手作りしていた頃のことを思い出したのだろう、
「自分で漬けると(味に)加減ができるからね」と納得の表情。
そうだね、お母さんの味の継承はできなかったし、できあいのぬか床を使った「なんちゃって」のぬか漬けだけど、自分なりに工夫していくよ、と心に誓う。
終わり際「また手紙を書くね」と言うと「また語いが(また話しましょう)*」。
そう、ミヨ子さんが施設に入る前に、できるだけたくさん話して、会ってもおきたい。すべては「できる間」のことだから。
*鹿児島弁で「話す」「しゃべる」は「語る」。例:「話し合い」→「語いえ」(語り合い)、「あんな言い方をして」→「あげな語い(かた)をして」。