昭和の?ことわざ(袖すり合うも――再び)
「昭和な?ことわざ(袖すり合うも)」では社会への失望みたいなことを書いたが、逆のできごとがあるのもまた人生。
JR東日本の某駅、時節柄構内で柏餅を売っていた。京都のKという和菓子屋さんのものらしい。夜の7時を回り、柏餅ふくめ何種類も大きな箱に用意されていた菓子はだいぶ売り切れていた。柏餅はよもぎ生地に粒あんをはさんだものと、普通の生地にこしあんの2種類が残っており、粒あんのほうは残り3個だった。
わたしと連れの前には2組のお客さんがいた。わたしはこしあん派なのだが連れが粒あん派なので「粒あんのが売り切れないといいね」と話しながら並んでいた。
最初の1組が粒あんとこしあんを一つずつ買った。粒あんは残り2個。
「粒あん、もう売り切れちゃうかな」と我々。
わたしたちの前の1組は3人の家族づれだったが、若いお母さんがふいにこちらを向いて
「粒あん、お好きなんですよね」と言い、店員さんに
「粒あんひとつと、こしあんふたつ」と注文した。半ば驚きつつ
「お気遣いいただいてありがとうございます」と恐縮する我々に、お母さんは会釈を返して立ち去った。
先に並んだのはあちらのご家族で優先権はあるのだから、我々の内輪話など聞こえなかったことにして、残りの粒あん二つを買うことだってできたはずだ。
わたしが逆の立場で、後ろの人も粒あんが欲しいことがわかったら、たぶん譲るだろうとは思うが、それも相手次第かもしれない。
駅の雑踏に消えていく家族連れを見送りつつ、世の中捨てたもんじゃないかも、と呟いた。