ひと休み(万緑)
五月に入った。五月のイメージは新緑、若葉だろうか。わたしは万緑を挙げたい。
万緑の中や吾子の歯生え初むる
言わずと知れた中村草田男のこの名句は数えきれないほど取り上げられているので、ここで改めて解釈はしない。「万緑」は草田男のこの句で夏の季語になったとされる。見渡す限りの生命力にあふれる緑が「万」の一文字でみごとに表現されている。
わたしが子供の頃より暑くなるのが年々早くなっていると感じていて、ゴールデンウイークに半袖を着るようになって久しい。それでも五月の入りばなは、本格的な夏というにはまだ早い。
柔らかな緑だった葉桜がだんだんと濃くなり、自然が乏しい都会暮らしでかろうじて目に入る木々、並木や歩道の植え込み、小さな公園などの緑も力強さを増していく。植物や樹木をはじめ、すべての生き物が夏に向かって力を漲らせていく。
あるのは上昇と希望だけ。わたしがいちばん好きな季節であり、一年でいちばん好きな月が五月だ。 過ごしやすいという理由もあるが、同じように過ごしやすい秋は、わたしにとって下降と衰退が待ち受ける季節のように思えて好ましくない。
若葉が輝き、生命力に満たされる美しい五月。今年も巡ってきてくれてありがとう。