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なぜ観光は食なのか

岩手県紫波町で、公金にたよらない公民連携事業オガールプロジェクトを主導した、岡崎正信氏の講演に行ったことがある。

岡崎氏が観光に一番大事なものは何かと観客にたずねる場面があった、選択肢は「景勝地」「文化遺産」「テーマパーク」「食」などがあったと記憶している(若干違うかもしれない)。

今なら迷いもなく答えるが、当時は文化遺産あたりだと思ったような気がする。

正解は「食」。

根拠として、スペインバスク地方のサン・セバスチャンは観光客が、人口規模に比して異例に多いことをあげていた。

今現在ネットでヒットする記事によると、年間70万人の観光客が訪れており、それは人口の3.8倍だそうである。

(この辺りのデータは不正確かもしれないので、興味のある方はご自身で調査されたし)

スペインの中でもバスク地方はアクセスの悪い場所で、バルセロナやマドリードからバスや電車で5時間以上かかるらしい。

僕の住んでいる釜石に東京からアクセスするのと同じぐらいのイメージである。

観光客の目的は食。

ミシュラン3つ星レストランが2022年の時点で3店舗あり、星の数の合計が19個あるという、世界一の美食の町なのだ。

そのレストランを目当てに、世界各国から人が集まるという。

文化遺産や自然の景観、テーマパークなどではなく、食なのである。

自然の景観や文化が目的でないとは言い切れないが、サン・セバスチャンが観光を誘致するために、食に力を入れたことが、観光客の増加につながったということだから、食が原因と考えるのが妥当であろう。

考えてみると、大学生になってマイカーが手に入ったとき、ドライブがなによりも楽しかった。

そして、ドライブしてどこに行くかというと「ラーメン屋」であった。

よく友だち数人で、片道2時間ぐらいかけて、鈴鹿から奈良の天理まで屋台のラーメンを食べに行ったりしたものだ。

正直言って、僕自身はラーメン1杯のためだけに、長時間走るのはどうかと思っていた。

それは僕が比較的、合理主義だったからかもしれず、他の友だちの頭の中には、そういう抵抗はないように見えた。

食は万里を超えるという、餃子の王将のキャッチフレーズがあるが、食べたいもののためならどこまでも走るのが人間なのだ。

僕の場合、このようにしてわざわざ遠くまで、なにかを食べに行くことはないのだけど、一方で、珍しい料理が好きである。

旅行に行けば、その土地固有の料理を食べたいし、外国で食べた料理は、必ず好きになって、日本でも探したり、自分で作ったりもする。

以上のことから、自分が住んでいるところ以外のものが食べたいと思ったり、おいしいと思ったりするところは共通しているように思う。

それはなぜかと考えると、普段食べているものと、含まれている成分が違うからではないだろうか。

水ひとつとっても、流れてきた山や土地の固有のミネラルなどが含まれているし、野菜も土によって多少変わったりするのではないだろうか。

もちろん、その土地の特産品のようなものは、まるごと食べたことのないものである可能性も高い。

さらに味付けや料理の仕方が違う。

いつも食べているものと違うものを食べると、不足していた栄養分を補うことが出来る可能性があり、そのために、本能的に離れた地域の食べ物を求めるのではないだろうか。

これは、近親交配を本能的に避けるようなことと通づるものがあるかもしれない(ただし科学的根拠があるかどうかは不明)。

サンプルが自分一人しかなくて恐縮だが、自分でもなぜ外国に行くと、必ずその国の食べ物を恋焦がれるようになるのか不思議だった。

アメリカに行った後はホットドッグやタコスなどのメキシコ料理。

シンガポールに行った後はチキンライス(カオマンガイ)。

スペインに行った後はパエリア。

海外ではないが、沖縄に行った後はソーキそば。

最近は地方でも、様々な国の料理が食べられるようになったのがありがたいが、それも外国の料理に人気があるせいだろう。

普段は食べられない料理を食べたい、おいしいと感じるのが本能だと考えると、納得がいく点が多いような気がするのである。

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