戦争を知る世代が急減している怖さを感じています ―森村誠一氏
作家の森村誠一氏が亡くなった。中国大陸で人体実験を繰り返した731部隊の活動を描き、戦争の狂気を伝えた『悪魔の飽食』、刑事小説「棟居刑事シリーズ」「終着駅」などの代表作品が容易に思い出され、棟居刑事シリーズはテレビ・ドラマでも異なる主演俳優で長く放送されてきた。原作が角川春樹事務所によって制作された映画「人間の証明」の宣伝コピーはいまだに頭の中で反芻できるようだ。「人間の証明」にも戦争の暗い影が投影されていた。新聞などのメディアに継続して投書して戦争反対の想いをアピールしていたが、戦争を知る世代がまた一人いなくなったという感があらためてする。
「戦争を知る世代が急減している怖さを感じています。」(毎日新聞2021年8月13日)
この言葉は1945年8月14日、敗戦の前日にあった埼玉県熊谷市の大空襲の体験談の中で語られている。戦争の悲劇を訴え、伝え続けることが戦争の抑止になると考えた。熊谷市空襲は8月14日午後11時から始まり、翌15日にかけてB29の編隊90機が約8000発の焼夷弾を投下し、266人が犠牲になった。森村氏は12歳だったが、市外に逃れて翌朝戻ると、市域を流れる星川は川底が見えないほど人が重なっていた。その中には初恋の女の子もいた。
森村誠一氏が書いたり、述べたりしてきたことはここ数日このウォールで書いてきたことと重なるようだ。
安倍政権以降多用するようになった閣議決定を含めて次のように朝日新聞の「声」欄に書いている。
「安倍政権は立ち上がりから胡散臭いにおいをまとっていた。首相の側近をお友達以上の都合のよい人物で固め、戦後日本の主柱である九条を勝手に解釈改変、一人勝手に自衛隊を米国に超安値で売り渡し、日本の大切な用心棒を米国の命令に従って世界のどこにでも派遣する手形を発行し、沖縄を叩き売り、無責任な原発再稼働、教育を日本の前科隠蔽に利用して、国民大多数の轟々(ごうごう)たる反対に耳を貸さず、国会で圧倒的多数を占めた与党を「私がいちばん偉い人」として牛耳り、閣議はほとんど独裁で決議した。」(2015年9月13日)
歴代の内閣は小泉政権を含めて集団的自衛権は憲法の制約上認めることはできないという立場をとっていたが、安倍政権では集団的自衛権を合憲とする内閣法制局長官を任命し、強引に成立させてしまった。安保関連法案については日経新聞の調査でも反対が57%、賛成の25%を大きく上回っていた。(日経新聞2015年6月28日)民意に反して法案を通したのは民主主義の原理・原則に背くものであることは言うまでもない。安倍元首相は自衛隊を地球の裏側にまで派遣すると語っていたが、その任務を負う組織はいつも定員割れを起こしている。防衛省は24年度から任期制自衛官の進学支援金を増額するなど募集に躍起となっている。
中国との果てない軍拡競争について森村氏は「中国の軍拡を抑えるための日本の軍備強化は、兜(かぶと)と刀のような関係であって、相互に相手よりも強くなろうとして果てしがなくなります。」と形容し、「日本は明治維新以後、日清・日露戦争から連戦連勝した勢いに乗り、国民に目隠しをして、真珠湾の奇襲から太平洋戦争に突入しました。ミッドウェイの 惨敗以後、連戦連敗を大本営発表で欺き、広島、長崎、また三百万を超える犠牲者を踏まえて、永久不戦の憲法を得ました。9条は日本だけではなく、戦争関連、国のすべてを含めての誓いなのです。日本は戦争に学び、中国は学ばず、むしろ日本のかつての暴走軌道を踏んでいます。日中国交正常化以後から始まった中国の軍拡は、まさに日本の、そして当時の世界列強の帝国主義(弱国の侵略)を踏襲しています。」(埼玉新聞 2014年1月26日掲載)と中国にも厳しい目を向けていた。
1987年、54歳の時の講演では「(戦後)わずか42年の間私たち日本人は戦争の恐ろしさも、戦前・戦中の人間的自由のすべての弾圧の恐ろしさも忘れている。語り継がなくなっている。日本国民の意識の風化を恐れるべきではないか。」と語った。来月、日本の8月は広島・長崎の原爆の日、終戦記念日があるが、戦争を知る世代が次々といなくなる中で、戦争体験者の記憶の継承こそが戦争の抑止力となるという森村氏の考えを継承できたらと思う。
アイキャッチ画像は2015年8月30日、国会前で
「ものを書く人間として絶対に許せない」――作家・森村誠一氏が国会前でスピーチ 「戦争は最も残酷なかたちで女性を破壊する」 2015.8.30
森村誠一氏スピーチ全文
森村誠一氏「私は喋れと言われれば、一時間ほど喋れます。
今日与えられたのはたった4分。従って、今日はこれだけ大勢の集まった女性に対してお話しをします。
戦争は女性を破壊します。最も残酷な形で女性を破壊します。例えば、現在、デモクラシーのシンボルのような憲法においても、女性が美しくある権利を保障するという言葉はありません。なぜ、ないか。それは当たり前のことを憲法で謳う必要はない。
ところが、戦争が終わった当日、日本の女性、すべての日本人、女性を含めて兵士になれという命令が出ました。その時に女性はどうされたか。まず、女性はもんぺという一番醜い衣服を着て、パーマネントをした女性は髪を刈られ、振り袖を着た女性は袖を切られました。
そういう中で女性は竹槍を与えられて、あの時、ルーズベルトやチャーチルの藁人形に竹槍で、刺し貫く訓練をさせられた。私はそれを見て、大切な女性が破壊されている光景をまざまざと見て絶対に女性にとって戦争をやってはいけない。ごく当たり前の女性の権利を破壊される。安倍政権は、その女性を殺そうとしています。
そして、一番最初に犠牲者となるのは若者たち。
若者たちが一番明白な危険に晒される。そして、女性にとって一番大切な『美しさを守る』ということが踏みにじられます。特に今日、この雨を共有した女性たちはこのことを絶対に忘れずに、戦争が始まったら、女性の人権は破壊されるということを絶対に忘れないでいただきたい。
いわゆる、女性が壊されるということは、子どもが生まれなくなって、人生が破壊されて、そして地球が滅びるということ。女性を軽率に、軽蔑して、そして、竹槍を持たせてB29を沈める訓練をさせた。こんな馬鹿馬鹿しい戦争はない。
その馬鹿馬鹿しい戦争を、安倍は再びできるような、可能な国家にしようとしています。私もものを書く人間として絶対に許せない。
けれども、私はかなり危険な思いをしました。『悪魔の飽食』という、アンチ平和を、その戦争というものの真実を書いた場合に、『森村暗殺計画』が企画されました。つまり言論の自由、思想の自由も圧殺された。
みなさん、この中で特に一番最初に殺されるのは若い人たちです。それも大学生、高校生が多い。みなさん、今日、降ったこの雨を共有して絶対に忘れない、絶対に安倍を許さない。そして絶対に戦争可能な国家にしてはいけない。
それは私たちの責任でもあり、使命でもあり義務でもあります。以上、4分経ちましたので。どうかみなさん、今日の雨を忘れないように。希望の雨です。どうもありがとうございました」