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ICC(国際刑事裁判所)、ネタニヤフ首相、ガラント前国防相に逮捕状を発行 ―日本も二人の逮捕責任を負う

 21日、ICC(国際刑事裁判所)はイスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を発行した。  ICCのカリーム・カーン主任検察官が逮捕状の請求を行ったのが、今年5月20日だったから実際の発行までに半年を要したことになる。イスラエルの同盟国である米国などの強い圧力がかかったことは想像に難くない。  ICCの逮捕状請求は、イスラエル政府首脳とハマス指導者たちに対して行われたが、訴状の内容は異なっている。イスラエル政府首脳たちは、民間人を飢えさせ、民間人に攻撃を加え、

    • 火野正平さんと沖縄の「こころの風景」

       俳優の火野正平さんが亡くなったが、彼の出演する自転車紀行番組「にっぽん縦断 こころ旅」は、視聴者から寄せられた手紙に書かれた「こころの風景」を訪ねる旅番組だった。 火野正平さんが相棒の自転車・チャリオに乗って日本全国を走ったが、多くの人々と出会い、人々の「心の風景」を訪ねて、自転車をアップダウンなどに苦労して漕ぎながら、また自転車を押し歩きしながら、心の交流を行うというものだった。  日本人の「心の風景」に残るのは良い思い出ばかりではない。沖縄では那覇市の旭ヶ丘公園にある

      • 谷川俊太郎さん ―死んだ男の残したものは

         詩人の谷川俊太郎さんが亡くなった。「善と悪」のような二分法で世界を見てならないと語っていた。世界の紛争は「善悪二元論」によって多くの場合戦われているが、その背景にあるのは、自らは正義で、敵は悪とするナショナリズムの考えだ。ガザやレバノンの戦争もその正当化の論理として善悪の二元論が用いられ、ナショナリズムを高揚させるために、こちらの側に正義があることが強調される。米国の対テロ戦争もそうだった。イスラエルのネタニヤフ首相はハマスやヒズボラなどとの戦いに「テロリストせん滅」を唱え

        • 人種差別の克服を考える米国人作家タナハシ・コーツは、人種差別を法体系化した「ジム・クロウ法」は現在のパレスチナにあると語る

           米国の作家タナハシ・コーツ(1975年生まれ)は、米国の人種差別を克服する方法を模索する作家で、彼の作品『僕の大統領は黒人だった バラク・オバマとアメリカの8年』(池田年穂, 長岡真吾, 矢倉 喬士訳、慶応義塾大学出版会、2020年)は、米国初の黒人大統領バラク・オバマと黒人社会が歩んだ8年間の軌跡を紹介したもので、全米ベストセラーになった。  原題の「We Were Eight Years in Power(「われわれは8年間政権の座にあった」)は南北戦争後の再建期に黒

        • ICC(国際刑事裁判所)、ネタニヤフ首相、ガラント前国防相に逮捕状を発行 ―日本も二人の逮捕責任を負う

        • 火野正平さんと沖縄の「こころの風景」

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          兵庫県知事選に見る世界的な負の潮流 ―「衆愚政治」、ポピュリズム

           兵庫県知事選で、パワハラ疑惑などで兵庫県議会から不信任決議を突きつけられた斎藤元彦知事が当選した。県議会は9月19日に斉藤氏に対する不信任決議を可決したが、その発端は3月の告発文書で、斎藤氏はこれを「うそ八百」と退け、停職3カ月の懲戒処分を受けた告発者の元西播磨県民局長は7月に自死した。  県職員へのアンケートなどで疑惑の解明に動いてきた丸尾牧県議(無所属)が「県主催のイベントや知事の外部視察は中止された。県内の首長や経済界からは『来年度の予算編成に支障をきたす』などの声

          兵庫県知事選に見る世界的な負の潮流 ―「衆愚政治」、ポピュリズム

          中東全面戦争を構想するトランプ次期政権と、武力抵抗こそが占領を終わらせる唯一の方法と考えるアラブの人々に勝利できないイスラエル

           トランプ次期政権の閣僚たちが親イスラエル傾向の持ち主であることは先日も書いた通りだが、この政権は好戦的なネタニヤフ首相の構想通りに中東政策を進める可能性がある。  バイデン政権はその在任中にイスラエルがもたらす飢餓、強制移住、大量虐殺に終止符をもたらすべきだが、大統領選に立候補したハリス副大統領は、バイデン政権の対イスラエル支援策が決定される際には必ずその場に居合わせたが、大統領選ではイスラエルの殺戮とは関係がないようにふるまった。バイデン政権にはイスラエルによるガザやレ

          中東全面戦争を構想するトランプ次期政権と、武力抵抗こそが占領を終わらせる唯一の方法と考えるアラブの人々に勝利できないイスラエル

          荒れるイスラエルのサッカー試合 ―日本人にも教訓を与える国のイメージ

           14日、パリのスタッド・ド・フランスで行われたフランス代表とイスラエル代表の試合は、16,611人とフランス代表の試合としては史上最低の観客動員数となった。イスラエルの試合のボイコットが呼びかけられた上に、イスラエルのサポーターが暴力的に荒れるという治安上の懸念もあった。16000人余りの観客に対して、この試合のために動員された警備員は4000人にも上った。  7日、オランダ・アムステルダムでもマッカビ・テルアビブのサポーターたちがアヤックスに0-5で敗れると、民家のパレ

          荒れるイスラエルのサッカー試合 ―日本人にも教訓を与える国のイメージ

          トランプ次期政権は国際法を無視する無法者閣僚たちの寄せ集め

           トランプ次期大統領が続々と新内閣の閣僚たちを指名するようになっている。司法長官には、17歳の少女に対する性的人身売買容疑で司法省の捜査対象になったことがあるマット・ゲーツを指名するなど常識では考えられない人事を行っている。トランプ自身も2023年、20年大統領選の結果を覆そうとした事件と退任時に機密文書を自宅に持ち出した事件で司法省から起訴されているが、またゲーツには薬物乱用の疑惑もあり、トランプ次期政権は無法者閣僚の集団といったところか。  イスラエルのネタニヤフ首相も

          トランプ次期政権は国際法を無視する無法者閣僚たちの寄せ集め

          「パレスチナ人のガザからの追放」を訴えるトランプ次期政権の駐イスラエル大使と、米国の福音派思想をもたらしたイギリス帝国主義

           米国のトランプ次期大統領は、元アーカンソー州知事のマイク・ハッカビーを駐イスラエル大使に指名した。  ハッカビーは「パレスチナ人は存在しない」と発言してきたエキセントリックなキリスト教福音派の指導者だ。1996年から2007年までアーカンソー州知事を務め、2008年と2016年に共和党の大統領候補の指名争いに出馬したことがある。アーカンソー州知事になる前は福音派の牧師だった。ハッカビーはヨルダン西岸とガザのイスラエルへの併合を長年にわたって訴えてきた人物だ。ヨルダン川西岸

          「パレスチナ人のガザからの追放」を訴えるトランプ次期政権の駐イスラエル大使と、米国の福音派思想をもたらしたイギリス帝国主義

          トランプ当選で勢いづくイスラエルの極右勢力 ―ヨルダン川西岸併合という拡張主義を準備するスモトリッチ財務相

           イスラエルの極右政党「宗教シオニズム」の党首ベザレル・スモトリッチ財務相は、米国大統領選挙でトランプ氏が当選したことを受けて、ヨルダン川西岸併合を準備するようにイスラエル外務省に命じた。  ユダヤ系米国人のカジノ王シェルドン・アデルソン(1933~2021)は、2016年のドナルド・トランプの大統領選挙活動に9000万ドルを献金し、その見返りとして米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた。  シェルドン・アデルソンは2021年に亡くなったが、その夫人ミリアム・ア

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          古い植民地主義的発想「ガザ2035」でガザ支配の恒久化を図るイスラエル・ネタニヤフ政権

           今年5月にイスラエルの「エルサレム・ポスト」紙はネタニヤフ首相の戦後ガザ地区に関する構想「ガザ2035」を発表した。その構想を表すガザの未来図の中には緑地の中に立つ高層ビル群、ガザ沖合には貿易に使用される船舶が停泊している。2000年代に頭角を現し、世界の貿易、交通のハブとなったUAE(アラブ首長国連邦)のドバイを彷彿させるかのようだ。その構想が書かれた文書には「ゼロからの再建」が強調されている。その言葉にはネタニヤフ首相のガザに関する目標、つまりガザを徹底的に破壊し、その

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          宮田律の中東・イスラム講座〈特別編集版〉 中村哲医師の足跡を知る

          2019年12月、アフガニスタンで銃撃を受け、73年の生涯を閉じた中村哲医師。 パキスタンやアフガニスタンで長らく医療活動に従事し、また用水路や井戸掘りによって人々に清潔な水を提供し、現地の人々の尊敬を集めてきました。 その歩みと発言、行動を知ることで、平和をつくるための一つの道筋、中東・イスラムの人との付き合い方、などが見えてくることでしょう。 30分のコンパクトな特別編集版講座です。 下のページから申し込むことができます。よろしくお願い申し上げます。 <内容紹介>

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          ガザ和平調停役から撤退するカタール ―国際社会で日本外交の力量が試されている

           イスラエルとハマスの停戦のための仲介を行ってきたカタールは、イスラエルとハマスがカタールなどの調停国への努力に応じないかぎり、仲介者としての立場から撤退することを表明した。  今年5月初めにハマスはカタールとエジプトという仲介国に対して停戦案を伝えることを表明した。しかし、この停戦案をイスラエルのネタニヤフ首相はただちに拒否した。この時の停戦案の内容は、段階的に行われるものとして、第1段階ではイスラエルの刑務所に収監されているハマスの囚人50人の釈放と引き換えにハマスの人

          ガザ和平調停役から撤退するカタール ―国際社会で日本外交の力量が試されている

          トランプの当選を大喜びするネタニヤフと、ネタニヤフの暴走を止めたいトルコ独裁者は独裁者を評価する?

           トランプ当選のニュースに満面の笑みを浮かべたのはイスラエルのネタニヤフ首相だった。トランプが大統領ならネタニヤフ政権のガザやレバノンなど周辺諸国への拡張主義的戦争に干渉せず、またイランとの戦争についてもトランプ政権なら米国がパートナーとなり得るからだ。  米国大統領選挙の当日、ネタニヤフ首相はガラント国防相を解任した。ガラント国防相は、ガザの将来についてイスラエルが占領を継続することに懐疑的で、これがガザへのイスラエルの再入植を考えるネタニヤフ首相や、政権内部の極右閣僚で

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          トランプの時代に贈るクインシー・ジョーンズが敬愛したイスラムの詩人の愛と寛容

           11月3日に亡くなったジャズ・ミュージシャンで、音楽プロデューサーだったクインシー・ジョーンズ(1933~2024年)は「私はオマル・ハイヤーム、カリール・ジブラン、ルーミー、L.ロン・ハバード、あらゆる種類の哲学書を読んでいました。」と語っていた。L.ロン・ハバードを除いては、ペルシアやアラブの詩人たちだ。  米国のフォークソング歌手のウディ・ガスリー(1912~67年)はペルシアの詩人オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」に強い影響を受けていた。有名な曲「我が祖国」の詞

          トランプの時代に贈るクインシー・ジョーンズが敬愛したイスラムの詩人の愛と寛容

          ガザの「日本地区」と、米国がトランプ政権だからこそ日本はパレスチナ国家承認を

           ガザ南部のハーン・ユーニスに「日本地区」と呼ばれるところがあることはあまり知られていないだろう。日本の援助で建てられた学校や保健所、住宅が集中するところだ。2012年から昨年3月までハーン・ガザの子どもたちは日本の支援への感謝と東日本大震災の被災者との連帯の思いを込めて凧揚げを行っていた。  UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)渉外・広報局の新田朝子さんによれば、ガザの子どもたちは日本の文化である折り紙や俳句なども学び、また釜石市の子どもたちのアイデアによって竹の

          ガザの「日本地区」と、米国がトランプ政権だからこそ日本はパレスチナ国家承認を