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中村哲医師が感じていた平和のシンボル日章旗への誇りと911が変えた日本

 アフガニスタンではどんな山奥に行っても日本人であることは安全保障だったと中村哲医師はその著書などで回想している。日本人というだけで命拾いをしたり、協力を得られたりすることは数知れず、車両や診療所には必ず日章旗をつけていたとも語っている。日章旗は中村医師の誇りでもあった。

武力ではテロはなくならない https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4361/


 しかし、2001年の911同時多発テロ後に日章旗に対する信頼が揺らいでしまったのではないかと中村医師は危惧するようになった。日本国内では、911の同時多発テロへの同情からアメリカに対する協力は軍事的なものまで含めて当然という意識が生まれていった。日本は1991年の湾岸戦争の際に自衛隊を派遣せずに、「国際的」には低い評価しか得られなかったという「反省」が政界や官界などの一部にはあり、日本の当時の小泉首相が戦時態勢の国家(米国)に貢献の立場を申し出たことは独立国家としてあり得ぬことだったと中村医師は述べている。

温かい食べ物と温かい慰めが必要 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4361/


 湾岸戦争の際に日本が「国際的」に低い評価を得られなかったというのは、「米国から低い評価しか得られなかった」という表現のほうが正しい。少なくとも戦争が終わった直後にイスラム世界を訪ねると、日本は軍事的にイスラム世界を汚すことがなく、だから良かったという声に少なからず接した。

 アフガニスタンで感ぜられる平和とは人間と自然との関わり方に深く依拠するものなのに、当時の日本政府が考えていた平和は米国とともに「テロリスト」を軍事力で封じるというものになってしまったことを中村医師は嘆き落胆せざるを得なかった。農業国のアフガニスタンでは水と緑が人間生活の基盤であったが、米国の戦争は金がなくては生きていけないという思い込みをアフガニスタンにもたらすことになった。しかし、少なくとも中村医師と用水路を築く人々は米国が唱えるような「国際正義」には騙されず、地上で汗を流して働く人々だった。

ブッシュには正義はなかった https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4361/

 中村医師によれば、アフガニスタンが独立した1919年頃、アジアでは欧米列強による植民地化・半植民地化が進行する中で、独立を保っているのは、アフガニスタンと日本は独立を維持している数少ない国だった。その結果、アフガニスタン人の間には独立不羈の国=日本というイメージが定着した。また日本は1904年から05年の日露戦争で、アフガニスタンの北の脅威であったロシアに勝利し、アフガニスタンの独立への運動を強く鼓舞することになった。

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 さらに、ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下に見られるように、第二次世界大戦で国土が灰塵に帰しながらも、戦後は技術大国として、戦争をしないで、復興を遂げた日本に対する敬意があった。戦争をする国には繁栄があるが、戦争をしないでも繁栄がある国=日本への良好な感情は圧倒的で、日本は半ば外国とも見なされないようだったと中村医師は語っている。

 中村哲医師の『医者 井戸を掘る』(石風社、2001年)の中に「日本が人々から尊敬され、光明をもたらす東洋の国であることが私のひそやかな理想でもあった。それは『八紘一宇』などというきな臭いものではない。『平和こそわが国是』という誇りは、自分の支えでもあった。」(202頁)と書かれてある。

 中村医師はその通りにアフガニスタンで事業を行い、少なくともアフガニスタンでは日本は尊敬される国であったと思う。「アフガニスタンは世界一の親日国」という中村医師の言葉にも、彼自身の活動に対する誇りも表れていた。

 中村医師は米国に顕著に見られるような「富と武器への拝跪・信仰こそが偶像崇拝」と説いているが、日本はその偶像崇拝や没落貴族との共有によって、日本の防衛費は年々増加の一途をたどり、24年度予算で防衛省は8.5兆円を要求している。軍備に金をかける国はローマ帝国、大英帝国のように、いずれ没落する運命にあることは歴史の証明するところだ。

週刊金曜日より https://www.asaho.com/jpn/bkno/2022/1212.html


 国民の福利とはまったく無縁な膨大な額の兵器を購入し、米国の意向に従って自衛隊を海外に派遣する、中村医師が断固として退けることであると言っていたものである。中村医師の活動のように、食と医療を最も優先することこそ平和国家日本の国是ではないか、それを唱える政治家が出てきてほしい。

表紙の画像は「人が死んでいるところに爆弾を落として何になると言っておられた」
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