シオニズムと核兵器 ―被団協の平和賞受賞と核兵器による恫喝は許されない
ノーベル平和賞の授賞式が日本時間の10日夜、ノルウェーの首都オスロで行われ、日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会にメダルと賞状が授与された。核兵器被害に苦しみ、核兵器廃絶を長年にわたって訴えてきた被団協の受賞は、日本人の佐藤栄作氏や同じく核兵器に関連して受賞したオバマ元米大統領やICANよりもずっと先にあるべきものだった。
岸田前首相は日本が核兵器禁止条約を批准する代わりに、NPT(核不拡散条約)を強化することで日本が核軍縮をリードしていくと述べていた。NPT強化が核軍縮とどう結びつくか不明だが、ガザで戦争を行い、アサド政権が崩壊したシリアを空爆などで攻撃するようになったイスラエルはそのNPTにさえ批准していない。
イスラエルが核兵器をもっていることは確実だが、シオニズムのイデオロギーで周囲をアラブ世界に囲まれる環境で建国を行ったイスラエルには核兵器によるアラブ諸国への恫喝が必要なものと思われている。実際、アラブ世界に行くと、知識人からもイスラエルの核兵器がなければ、戦争でイスラエル国家を打倒できるという声に接したこともある。シオニズムによる国家を維持するには核兵器という「悪魔」との契約が必要と考えられたが、その意味でもシオニズムが人類社会に残した負の遺産は重大と言わざるを得ない。
ノーベル平和賞受賞式で、被団協代表委員の田中熙巳さんはウクライナに侵攻するロシアの核の恫喝に触れながら、核兵器使用を口にするイスラエルの閣僚がいることに言及した。
昨年11月5日、イスラエル・ネタニヤフ政権のアミハイ・エリヤフ・エルサレム問題・遺産相はガザに核兵器を落とすのも選択肢の一つだと述べた。彼はガザの人々を「ナチス」と形容し、ナチスに人道支援を行う必要などない、ガザにはハマスに関わっていない人物などいないと語った。当時、240人の人質がガザ内部にいても核兵器を使用するのか尋ねられると、戦争には代償が伴うと発言した。
イスラエルでは、モシェ・ヤアロン元国防相が2015年5月5日、イスラエルがイランに対して核攻撃を行う可能性について言及したこともあった。これは東京新聞などで報じられたが、多くの日本人には知られていないことだろう。彼は、イランとの長期の戦争を避けるために、米国トルーマン政権が広島・長崎に原爆投下を行ったようにイスラエルもまた「断固たる」措置を講ずるべきだと述べた。イスラエルが核兵器をもっていることは確実だが、イスラエル政府は公式には「もっている」とも「もっていない」とも語っていない。しかし、ヤアロン国防相の発言は、イスラエルが核兵器を保有していることを政府関係者として明らかに認めるものだった。
イスラエルは12月8日にアサド政権が崩壊して以降、数十回の空爆をシリアに対して行ったが、シリアの武器が過激派に渡るのを防ぐためだと主張している。他方でイスラエルがシリアから占領しているゴラン高原の兵力引き離し地帯にも軍を進め、そこの主権を主張しかねない様子だ。
イスラエルの核兵器保有は、シオニズムに基づくイスラエルのナショナリズムをくすぐるものかもしれないが、自国の安全保障のためには手段を選ばないイスラエルが核兵器を保有することはきわめて物騒なように見える。イスラエルが核兵器を保有していることが、イランの核兵器への関心を高め、またイラクでもフセイン政権に核兵器の開発をさせることになった。実際、イラク・フセイン政権による核兵器の開発にはアラブ・イスラム諸国の大衆レベルではこれを支持するムードが強かったが、イスラエルの核は中東地域の核兵器への関心を高めるものだ。イスラエルのネタニヤフ首相はイランの核の脅威を強調して自らの足元を見ていない様子だ。イスラエルの核兵器についてもオバマ氏と広島で握手した被爆者の坪井直さんが核廃絶を「決して諦めない」と語ったように、国際社会は決して諦めることなく、イスラエルに核兵器の放棄を求めていくべきだろう。
表紙の画像は下より
被団協にノーベル平和賞授与 世界へ被爆の実相発信、日本2例目、50年ぶり