クリムトごっこ
クリムトの『接吻』を描くワークショップに行ってきた。
絵とペアリングしたワインが1種類選定されていて、そのワインを楽しみながら絵を描いてみようというもの。手ぶらで参加・初心者OKという、比較的敷居の低いイベントだった。
アートとワインのペアリングってなんだかおしゃれですてきである。私は下戸なのでジュースしか飲まなかったが、イベント開始時にワインの詳しい説明があったので、きっと上等の、こだわりのワインが選定されていたのだろう。ワインが好きな人にはそれだけで楽しいイベントだと思う。
私は絵に造詣が深くない。絵の腕前は、ある意味での画伯。そして、そもそも絵具を触るのが中学生の美術の授業ぶりかもしれないというくらいには、絵を描くことからは遠いところで生きてきた。
ただ、アートに触れること自体は好きだ。
美術館に行って、美しいものを見てすごいなあと思ったり、絵に勝手な設定をつけて、こういう絵にちがいない!と絶対に間違った解釈を考えてみたり、画家の人生に思いを馳せたりする。
最近だと、絵画への没入をうたった体験もした。有名な絵画を、広大な空間を埋め尽くすほど拡張して投影し、大迫力の音響とともに全身でアートを体感できるというものだ。言ってしまえばプロジェクションマッピングなのだが、デジタルアートの最先端に触れられる経験だった。
あと私が経験したことのないアート体験といえば、やはり描く側である!これを機に、秘められた才能が開花しちゃうかも!なんか急に1億円で絵が売れちゃったりする可能性だって、まああるかもしれないのだ!
当日、参加者は12~13人だった。参加者のうち半分程度は友達と参加していて、もう半分程度は1人で参加していた。意外と1人参加の人が多くて安心した。
乾杯のあいさつから始まり、講師の自己紹介。東京藝術大学で油絵を学んでいるという講師が2人も来ていた。こ、こんな素人の相手をしていただいていいんでしょうか。恐れ多!!!!
下絵がすでに書いてあるキャンバスが用意されていた。これで初心者が参加してもひどいことにはならないようになっているのか。
筆や絵具、エプロンも用意されていた。
講師の指示に従い、まずは女性の顔から描きはじめていく。
が、ここでトラブル発生。目とか眉、細く描く難易度が高すぎる!細心の注意を払っているのに、ぼてっとした野暮ったい線しか引けない!意図してないところに線がはみ出る!
周りには参考作品がいくつか並んでいる。どの作品も繊細な筆遣いで閉じた瞼が描かれている。どうやってるの!?
講師も私たちと同じタイミングで描いていた。色使いの美しさ(顔色がくすまないように計算されている)や、陰影のリアルさ、タッチの繊細さが私のそれとはあまりにかけ離れていた。
世の画家たちは、こんなに難しいことをしていたのか…!
絵の制作工程への解像度が上がった瞬間だった。この肌感覚を得られただけで価値がある。何が難しく何が素人と違うのか、実感をもって知ることができると、今後絵を見るときにもっと楽しくなりそう!
そしてもっと驚くべきは講師のアドバイスである。
瞼の線をもっと細くしたいんですけどどうしたらいいですか?と質問してみた。
するとパッと絵を見て、
というような、私の絵に即した具体的なアドバイスをもらえ感動した。アドバイスが出てくるまでがめっちゃ早い!そしてその通りにやったら確かに急にいい感じになった!的確すぎる!知識と経験ってすごい!
次の工程は、男性の肌の調合である。
講師の指示は、オレンジと濃い緑を混ぜて茶色を作り、そこに淡いベージュを混ぜて好みの色を作ってくださいとのことだった。
茶色がオレンジと緑でできるの!?というところからちょっと混乱。そして、茶色を自分のイメージした肌の色にすることも大変だった。どれだけ茶色に淡いベージュを混ぜても、ずっとチョコレート色だ。全然良い色にならない。大量のベージュを消費して、さあこれならもう肌っぽく見えるだろうと思ってキャンバスに色を乗せて驚愕した。いや、濃!!!私がイメージしてたのはこれではないのだが!!!
一つ一つ説明をしているときりがないが、そんな感じですべての工程が新鮮で楽しく進んでいった。肌を塗った後は髪を塗り(毛流れを意識すると良いとアドバイスをもらった)、花冠を描き、芝生を塗り、芝生の花を咲かせ、服の黄色を塗り、模様を描き、背景を塗った。
私の雑な性格は存分に絵にも反映されている。特に服の模様部分は集中力も切れ始めており、非常に前衛的な仕上がりになっているが、それもご愛敬である。
塗る面積が大きい箇所は、大きな筆でたっぷりと絵具を使ってペタペタと塗り付けていく。無心になれる作業だった。たちまち鮮やかになるキャンバスはきれいだった。
背景の色は、自由に好きな色で塗ってくださいねと言われた。参考作品のなかには背景がピンクのものがあり、原画とは違う色だがなるほど違和感はない。
であれば、グレーがいいと思った。原画とは違うがそうしよう。私はハマスホイという画家が好きだ。彼の絵はいつもグレーがかっていてすてきなので、ハマスホイリスペクトだ!
最後に背景に金箔を塗って完成。乾くと透明になる絵具に金箔を溶いて塗り付ける。乾くと絵具は消え、金箔だけが残るといわれた。そんな道具があることさえ知らなかった。
一人で絵具、筆、金箔、金箔用絵具、キャンバス、キャンバスを立てるやつ、エプロンなど全てを用意していたら、優にこの参加費分を超えていたと思う。家を汚してしまう心配もないし、講師にも教えてもらえることを考えると、参加費は決して安くないけどお値打ち感がある。1人ではできないことが体験できるという意味で、すごくよかった。
描き上げると、1人で参加していたためか、講師が2人ほど話しかけに来てくれた。すると2人とも、背景がグレーであることに言及した。
もしかして私、独自の感性の持ち主!?!?秘められた才能開花しちゃってる!?!?
日本トップクラスの人が2人いて2人ともそういうのであれば、私のグレーはきっと素晴らしいのだろう!と、大変いい気分になりながら帰路についた。
改めて完成した作品がこちら!
本格的なクリムトごっこができて楽しい経験になった。
あとはこの絵が1億円で売れてくれたら完璧である!