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2022年3月の記事一覧
【小説】春というにはまだ早い
「温かくなってきたねえ。そろそろ春かな?」
「いや、まだわからんよー」
縁側に腰掛け、お茶を啜りながら答えるおじいちゃんに甘えながら孫が尋ねます。
「なんで?」
孫は首を傾げます。
「この時期は、三寒四温といってね、温かいなと思って油断したら、まだ寒さがぶり返してくるんだ。春というにはまだ早い」
それから何日かして。おじいちゃんのいうとおり、寒い日が戻り、そして、また温かくなりま
【小説】はじめてのキャンディ
久しぶりのまともな休日。目を覚ますと、外はまだ暗い。狭い部屋に脱ぎ散らかした服の山。食卓に残されたいつかの食器たち。乱雑に転がった、いるものいらないもの。
1DKの古いマンションだが、リノベーションのおかげで、不便は感じない。
なぜだか、疲れたときほど、はやくに目が覚めてしまう。
時計を見ると、まだ夜更けだ。
帰ってきて、風呂にも入らず、眠りに落ちたらしい。昨日のシャツのまま横に
【小説】明かりをつけましょ
これはある姉弟のおはなしです。
その日、事件が起こりました。
「たいへんだ!ね、姉ちゃんが、引きこもった!!!」
そう、姉のアマちゃんが引きこもりをはじめたのです。弟のサノオは慌ただしく叫びまわり、そのことはすぐに隣り近所に知れ渡りました。
アマちゃんはその明るい性格で近所の人気者。そんな彼女が塞ぎこむなんて、驚きを隠せない皆。彼女がいないだけで、どんより暗い空気が漂います。