また三人で牛タンが食べたいな
わたしたちは全くバラバラの三人でしたが
年に数回は一緒に旅行に行きました。
大学で出会ったササキとユリ。
ササキはギャルっぽい見た目で、ユリはアナウンサーのような見た目でした。二人ともいつも隙のないお化粧をして、雑誌に載るような華やかな服を着ていました。
それに比べると、わたしは地味な学生でした。マスカラの塗り方よりも今期のアニメや研究の進捗が気になる。オシャレをしたい気持ちはあったけど、そこまでの努力をする熱意も興味もありませんでした。
派手な子と地味な子。
垢抜けている子と垢抜けていない子。
その間にマラッカ海峡ぐらいの溝があるのをわたしは良く知っていました。そして努力もしないくせに「あの人たちは壁の中の人間よ…」と勝手にひねくれかえっていました。
でも二人はわたしのことを奇跡的に面白がってくれて、なぜだか一緒に旅行に行くような仲になりました。
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わたしたちは社会人になったのを良いことに、スーツケースを持ってどこへでも行きました。北は仙台から南は沖縄まで。海外はセブ島にも行きました。
彼女たちは常に感情に正直でした。
すぐに「最高じゃない?」と言うし、面白いことがあったら人目も気にせず大声で笑う。したいことはためらいもなく「えーこれ超楽しそう!」とばんばん挑戦する。
変な中二病を引きずっていて、感情表現を抑えがちなわたしには二人の楽しみ方は衝撃的でした。
食に対してはとりわけ貪欲でした。
海ぶどうの食べ放題に行きたいと言い出したりしたり、「イクラ考えた人って天才じゃない?」と真顔で言ったり
あおさのお味噌汁を飲んで「これを鍋ごと持ち帰ろう」と言ったりしました。
ぶあつい牛タンも食べたし、沖縄そばも食べた。
のどぐろや兼六園のおだんごも。
中洲の屋台も経験しました。
三人で食べたものは思い出せないぐらいたくさんあります。
二人といると、ぶ厚すぎるひねくれの鎧が解除されて、なんだか素直になれる気がしました。美味しいとか楽しいとか、軽率に口に出して言いあうことがこんなにも嬉しいというのは、ちいさい頃からずいぶん忘れていた感覚のような気がしました。
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ここ一、二年でわたしたちは疎遠になりました。ライフステージの変化もあるし、一番はササキに連絡がつかなくなったからです。
わたしたちはお互いを尊敬しているし、詮索はしない。事情もあるだろうし、仮にそういう気分じゃないということでも絶対に責めたりはしません。
でもやっぱりちょっとだけ寂しい。
叶うことなら昔のように「美味しい美味しい」と言いながらぶあつい牛タンを食べたいのです。