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メンタルヘルス関連サービスの効果検証の第一歩は?
<執筆者紹介>
宮中 大介。はたらく人の健康づくりの研究者、株式会社ベターオプションズ代表取締役。行動科学とデータサイエンスを活用した人事・健康経営コンサルティング、メンタルヘルス関連サービスの開発支援に従事。大学にてワーク・エンゲイジメント、ウェルビーイングに関する研究教育にも携わっている。MPH(公衆衛生学修士)、慶應義塾大学総合政策学部特任助教、日本カスタマ―ハラスメント対応協会顧問、東京大学大学院医学系研究科(公共健康医学専攻)修了。
はじめに
近年、企業において、EAP(Employee Assistance Program)をはじめとする従業員のメンタルヘルスをサポートするためのサービスの導入が進んでいます。しかし、メンタルヘルス関連サービスを導入する際、企業担当者がしばしば直面する課題のひとつが、決裁権者からの「このサービスは本当に効果があるのか?」という質問です。
今回はこの質問に答えることを目的としてメンタルヘルス関連サービスの効果をどのように検証するかについて詳しく考察してみたいと思います。
効果検証の重要性と指標選定
効果検証を実施する際に最も重要なポイントは「どのような指標を使って効果を測るか」です。メンタルヘルスサービスの効果には、さまざまな側面があります。例えば:
ストレス反応の軽減
生産性の向上
休職率の低下
離職率の低下
これらの指標は、サービスの導入効果を測るうえで非常に重要な要素となります。導入前後でこれらの指標にどのような変化があったかを測定することが、効果を明確に示す手段となります。
ビジネスに与える影響を示す指標の重要性
メンタルヘルスサービスの効果検証において、離職率の低下は非常に分かりやすく、昨今の採用難の中でビジネスへの直接的な影響を示す指標です。新卒や中途採用の際にかかる採用コストは、企業の財務に大きな影響を与えるため、離職率の低下がもたらす経済的利益は非常に重要です。
たとえば、ある企業でEAPサービス導入前後で離職率がXポイント低下したというデータがあった場合、これを採用コストに換算することができます。採用コストの目安は人材会社などから提供されており(https://www.persol-bd.co.jp/column/hrsolution/recruitment-cost/)、これを参考にすれば、効果を簡単に金額で評価することができます。以下の計算式を使って、サービス導入によるコスト削減効果を示すことができます。
計算式:
自社の従業員数 (人)× (離職率低下率(%) ×1人あたりの 採用コスト(万円)
具体例:1,000人×(8%-5%)×100万円=3,000万円
このデータを使えば、「EAP導入により、離職率がXポイント低下したことで、採用コストがY万円削減された」という具体的な結果を得ることができ、上司やステークホルダーにとって非常に説得力のある数字となります。
効果検証のデザインの重要性
新規にサービスを導入する際には自社での効果検証は出来ませんので、ベンダーに他の導入企業で実施されている効果検証データを請求することになります。ここで重要なのは、どのような検証方法が使われているかです。理想的には、厳密な検証デザインとしてランダム化比較試験(RCT)が求められますが、ビジネスの現場では、サービス導入効果をランダム化比較試験で実施することはほとんど不可能です。
ビジネスにおいて現実的な方法は、前後比較です。研究の世界では前後比較のエビデンスレベルは低いとされていますが、ビジネスの現場においては、効果検証を実施すること自体が珍しく、相対的には高い信頼性を持つと考えられます。ベンダーのサービスを導入した1社でも、前後比較を行っているのであれば、そのデータは十分に価値があります。また、複数の導入企業での結果が出ていると、さらに信頼性が高まります。
サービス導入後の効果検証
サービスを導入したら自社での効果検証が重要です。ベンダーとも相談しサービスの効果を最も適切に計測でき、ビジネス上のインパクトとして解釈しやすい指標を選択し、自社でのサービス導入前後で変化を把握します。
まとめ
EAP(Employee Assistance Program)をはじめとするメンタルヘルスサービスを企業が導入する際、サービスの効果の検証は欠かせません。
導入前にはベンダーにこれまでの導入企業でのデータを請求し、自社での導入後には自社で導入前後の指標の変化を計測します。効果検証に用いる指標として離職率の低下や生産性向上など、ビジネスに直接影響を与える指標を使うことで、導入の経済的なメリットを明確に示すことができます。
以 上